【コンサルタントコラム】AI時代、人材不足の本質は変わったのか

【コンサルタントコラム】AI時代、人材不足の本質は変わったのか

AI時代に必要な経営能力が変化する中、企業は将来のリーダーをどう見極め、育てるべきかを考察する

執筆者:プリンシパル/遠藤 正芳

生成AIの普及によって、多くの企業がAI人材の採用やリスキリングを急いでいます。しかし、企業が本当に問うべきなのは、「AIを使える人材を何人確保できるか」だけではありません。

AIによって事業環境や仕事のあり方が変わり続ける中で、今後の事業戦略を実現するために必要な経営能力を、社内でどのように育んでいくかではないでしょうか。

2022年、コーン・フェリーは「Leadership challenges: The current state of talent」の中で、企業が将来に必要なリーダーや人材を本当に見極め、育成できているのかという問題意識を示しました。

一見すると、パンデミック直後に書かれた少し古い論考です。しかし4年を経た今、この問題意識はむしろ重みを増しています。

2022年当時、その背景にはパンデミックに加え、欧米を中心に転職・離職が急増した「Great Resignation(大量離職)」がありました。2026年の現在も、働き方や人材流動化を巡る変化は続いています。そこへ生成AIという新たな変化が加わったことで、企業を取り巻く経営環境はさらに大きく変わりました。

だからこそ、4年前にコーン・フェリーが示した問題意識は、AI時代の今こそ改めて考える価値があります。

人材不足ではなく、「能力」不足の時代へ

本論考で最も印象的なのは、人材不足を単なる「人数」の問題として捉えていないことです。

コーン・フェリーの調査では、自社を将来へ導くために適切な人材が揃っていると考えるHRリーダは29%にとどまりました。この数字が示しているのは、「人が足りない」ということだけではありません。今後の事業戦略を実現するために必要なスキルや経験、リーダーシップを備えた人材が十分に育っていないという課題です。

AIによって事業や組織が変わり続ける現在、この問いは「人数を確保すること」から、「今後の事業戦略に必要な能力をどう見極め、どう育てるか」へとさらに重みを増しています。

もちろん、AIを活用できる専門人材は不可欠です。しかし、それだけではAIを競争優位へ結び付けることはできません。より重要なのは、AIを事業価値へ結び付け、組織を変え、人の力を引き出しながら変革を進められるリーダーです。

本稿では、こうした課題を、単なる「人材不足」ではなく、「能力」の不足として捉えてみたいと思います。ここでいう「能力」の不足には、二つの側面があります。一つは、今後の事業戦略を実現するために必要な能力や経験を備えたリーダー人材が十分にいないこと。もう一つは、そうした人材を早期に見極め、必要な経験を積ませ、計画的に育てていく仕組みが十分に機能していないことです。

企業が向き合うべきなのは、人材の数そのものではありません。事業戦略の実現に必要なリーダー像を描き、その実現に必要な経験や能力を、計画的に育み続けられる組織であるかどうかです。

「採る」競争から、「育てる」競争へ

元論考では、企業は外部採用だけではなく、自社人材の潜在能力にもっと目を向けるべきだと提言しています。この考え方は、AI時代においてさらに重要になります。

事業モデルや競争環境そのものが変化する中では、現在の成果だけで次の経営を担うリーダーを見極めることはできません。学習俊敏性、変化への適応力、価値観、動機など、将来に向けたポテンシャルまで含めて人材を理解し、育成することが求められます。企業間競争は、「優秀な人材を採る競争」から、「次の事業を担うリーダーを社内で育てる競争」へと移り始めています。

リーダー育成の仕組みは「選ぶ仕組み」から「育てる仕組み」へ

こうした考え方は、将来のリーダーを継続的に育てる仕組みを改めて見直す必要性にもつながります。従来、多くの企業では、「誰を次のリーダーに選ぶか」が議論の中心でした。しかしAI時代に求められるのは、「将来の事業に必要な能力を持つリーダーを継続的に生み出せるか」、そして「そのための仕組みをどう設計するか」という視点です。ここでいう「仕組み」とは、単に研修機会を増やすことではありません。将来の事業戦略から逆算してリーダー要件を定義し、候補者の強みや開発課題を把握し、必要な経験や配置・育成を設計することです。

これらをタレントレビューやサクセッションと一体で運営して初めて、リーダー育成の仕組みは、単に「誰を選ぶか」から、「次の経営を担う人材をどう育てるか」を支える経営基盤へと進化します

具体的には、次のような一連の取り組みが重要になります。

① 将来の事業戦略から逆算して、リーダー要件を定義する。

② その要件に照らし、候補者の強みや開発課題を客観的に把握する。

③ 必要な経験を計画的に設計し、配置・育成・コーチングを通じて成長を促す。

④ これらをタレントレビューやサクセッションと一体で運営する。

日本企業への示唆

私たちが日本企業のサクセッションやリーダー育成をご支援する中でも、後継者計画が「誰を選ぶか」という議論に留まり、将来の経営環境で必要となるリーダー要件の再定義や、その要件に基づく経験設計まで議論が及ばないケースは少なくありません。

実務の現場では、候補者リストや後継順位は定期的に更新されていても、「この人に次の経営を担ってもらうためには、どのような経験を積ませる必要があるのか」という議論まで十分に深まらない場面に出会うことがあります。

CHROやサクセッション事務局に求められるのは、候補者リストを整備することだけではありません。事業戦略から逆算して必要なリーダー像を描き、その実現に向けて、誰にどのような経験を積ませるのかまで設計し、経営陣や指名委員会と共有していくことではないでしょうか。

おわりに

事業環境やテクノロジーは変わり続けています。一方で、次の成長を描き、人を動かし、変革を実現するというリーダーの役割の本質は変わりません。だからこそ、次の経営を担うリーダーをどう見極め、どう育てるかは、いま改めて問い直す必要があります。これは、人事部門だけの問いではありません。経営陣、指名委員会、CHROが共通の視点として向き合うべきテーマではないでしょうか。

最後に、自社の取り組みを振り返るために、三つの問いを投げかけたいと思います。

• 今後の事業戦略や中期経営計画に照らして、必要なリーダー要件は明確に定義されているでしょうか。

• その要件に照らし、現在の候補者のポテンシャルや開発課題を客観的に把握できているでしょうか。

• 採用、配置、育成、リスキリング、サクセッションは、将来のリーダー要件に基づく一貫した仕組みとしてつながっているでしょうか。

出典・参考資料

Leadership challenges: The current state of talent(コーン・フェリー, 2022)

本稿のベースとなった論考。パンデミック後の人材不足を踏まえ、将来のリーダーをどのように見極め、育成していくべきかを論じています。

Introducing the AI-Ready Leader(Korn Ferry Institute, 2025)

AI時代に求められるリーダーの役割や責任、人とAIが協働する時代のリーダーシップについて整理した論考です。

Why AI-Readiness Is Vital to Your Leadership Succession Plan(コーン・フェリー)

AI時代を見据えたサクセッション・プランニングの考え方と、リーダー要件を見直す必要性について解説しています。

CEO Succession Planning: Best Practices for Boards(コーン・フェリー, 2025)

CEOサクセッションを一度きりの後継者選定ではなく、継続的な経営プロセスとして捉える考え方を紹介しています。