【コンサルタントコラム】サクセッションを支えるハイポテンシャル人材の発掘―「ハイポテンシャル人材の発掘 組織の将来を担うリーダーを確実に特定する」を現在の視点で読み解く―


不確実な時代に成功する人材に求められるポテンシャルとは何か。将来の経営リーダーを見極める要諦を解説。
執筆者/アセスメント&サクセッション部門 中岡 賢太郎
生成AIの普及、地政学リスクの高まり、事業ポートフォリオの変化は、企業に対してこれまでとは異なる経営能力を求め始めています。こうした環境下では、現在の事業を安定的に運営できるリーダーだけでは十分ではありません。不確実性の高い状況で意思決定を行い、人を巻き込み、変革を実現できるリーダーを生み出せるかどうかが、企業競争力を左右する時代になっています。私はこの変化を単なる環境変化ではなく、サクセッションとタレントプールのあり方を見直す契機として捉えています。いま企業に問われているのは、将来の経営を担う人材を継続的に供給できる仕組みを構築できているかという点です。
この問いは、CHROや人事責任者にとって不可欠な経営アジェンダの一つになっています。
サクセッション成功の起点は、変化に適応し続けるハイポテンシャル人材の発掘である
コーン・フェリーが2020年に発表した『ハイポテンシャル人材の発掘 組織の将来を担うリーダーを確実に特定する』ホワイト・ペーパーは、将来の経営を担う人材をどのように見極めるべきかというテーマを提起しており、その主張は発表から数年を経た現在、一層説得力を持つようになっているといえます。その背景には二つの環境変化があります。経営環境の不確実性がさらに高まり、過去の成功体験がそのまま通用しにくくなるなかで、過去の実績やパフォーマンスだけでは将来の経営人材を見極めることが難しくなっていること。次に、様々な変化を脅威としてではなく学習機会として捉え、自ら変化し続けられる能力が、これまで以上に求められていることです。ここでは、これらこそが、いま改めてハイポテンシャル人材の発掘と育成のあり方を再考すべき理由であると私は考えています。
ハイポテンシャル人材を見極める難しさ
コーン・フェリーの調査によると、人事プロフェッショナルの98%が「ハイポテンシャル人材の適切な特定は組織成功に不可欠」であると認識し、82%が従来以上にハイポテンシャル人材の育成に注力しています。しかしその一方で、「将来必要なリーダー候補が自社内に存在する」と回答した企業は29%に留まり、「適切な人材がハイポテンシャル人材プログラムに選抜されている」と回答した企業はわずか14%と示されています。
これらの結果は、多くの企業がポテンシャル人材の重要性を理解しながらも、将来のリーダーを見極める仕組みに課題を抱えていることを示しています。実際の現場でも、ポテンシャル人材の発掘の重要性は認識されている一方で、「どのように見極めればよいのか分からない」「ポテンシャルの定義が曖昧で、評価者によって判断軸が異なる」「現在のパフォーマンスと将来のポテンシャルが混同されている」といった声は少なくありません。
過去の延長線上に未来を描きにくい時代には、「現在何を知っているか」以上に、「未知の状況から学び、変化に適応し、周囲を巻き込みながら変革を実現できるか」を見極める必要があります。
ハイポテンシャル人材を見極める視点
コーン・フェリーは、長年にわたり蓄積してきた膨大な人材データと専門知識を基に、ハイポテンシャル人材を見極めるための知見を体系化してきました。その後の研究や実践も踏まえ、現在では、大きく6つのカテゴリー、合計19の指標を科学的に評価するアセスメントを開発し、グローバルで展開しています。このアプローチにより、属人的な判断やバイアスの影響を抑えながら、企業は過去のパフォーマンスだけでは見極めることが難しい将来のリーダー候補をデータに基づいて特定することが可能になりました。
それらの項目は全て重要ですが、先ほど述べた二つの環境変化に直結する要素として本稿ではラーニング・アジリティーの観点から考察します。ラーニング・アジリティーとは、「経験から学び、それを未知の状況や新たな課題に応用する能力」を指します。ラーニング・アジリティーの高い人材は、経験から得た教訓を効果的に活用し、前例のない環境や複雑な状況においても柔軟かつ的確に対応しながら、自らの考え方や行動を更新していくことができます。コーン・フェリーの研究によると、組織階層が上がるほどラーニング・アジリティーのスコアも高くなる傾向があり、経営陣のラーニング・アジリティーが高い企業は、同業他社と比較して利益率が高い傾向にあることも明らかになっています。こうした事実は、ラーニング・アジリティーが単なる個人特性ではなく、企業の持続的な成長や競争優位性とも密接に結び付いていることを示していると考えられます。
将来の経営を担う人材を継続的に供給していくためには、現在の成果だけでなく、将来の成長可能性や適応力を含むポテンシャルを客観的に評価し、そのデータを経験付与の検討に活用することが中長期的に非常に重要です。例えば、将来のサクセッション候補に対して、事業変革や新規事業への参画、異なる事業・職種・地域での経験、さらには経営層との接点や戦略課題への参画機会を意図的に提供することで、経営人材としての成長を加速させることができます。私自身がプロジェクトを進める中で、ラーニング・アジリティーの高い人材は、難易度の高いアサインメントや未知の環境に対しても抵抗感を示さず前向きに挑戦し、成果につなげるケースが多く見られます。
発掘されたハイポテンシャル人材を組織的に育成し、将来のサクセッション候補群として戦略的に管理する仕組みがタレントプールです。適切に人材を発掘することは、その人材に必要な経験や育成機会を見極め、中長期的な育成戦略を設計するための出発点として位置付けられます。
おわりに
現在のビジネス環境において、サクセッションとタレントプールを個別の施策として扱うのではなく、中長期的に連動する仕組みとして設計・運用していくことがさらに重要になっています。
これまでサクセッションに関する取り組みに携わるなかで、ポテンシャル人材の重要性は認識されていても、その人材を早期に見極め、計画的な経験や育成につなげる仕組みに課題があると感じてきました。その意味で、日本企業には、ポテンシャル人材を早期に特定し、戦略的な経験機会や育成機会を提供していくことが求められていると考えています。最後に、サクセッションとタレントプールをより実効性のある仕組みにしていくために、自社の取り組みを振り返る三つの問いを提示します。
• タレントプールは、サクセッションを支える仕組みとして機能していますか。
• 不確実性の高い環境で成果を発揮できるハイポテンシャル人材を、客観的かつ適切に特定できていますか。
• 将来の経営人材候補に対して、成長を促す経験や育成機会を計画的に提供できていますか。
出典・参考資料
【ホワイトペーパー】ハイポテンシャル人材の発掘 - 組織の将来を担うリーダーを確実に特定する(コーン・フェリー, 2020)
本稿のベースとなった論考。ハイポテンシャル人材をどのように特定するか、その具体的な特徴や評価の視点を論じています。
