【講演録】これからのグローバルHRに期待される役割とは


日本企業を取り巻く環境変化や世界の先進企業の取り組みを踏まえながら、日本企業が今後取り組むべきグローバルHRの方向性について考察。
コーン・フェリーでは2026年10月14日に「これからのグローバルHRに期待される役割とは」と題するオンラインセミナーを開催しました。本稿では、講演とQ&Aをもとに、グローバルHRに求められる役割進化と、その背景にある考え方を再構成しました。
コーン・フェリー・ジャパン シニア クライアント パートナー 鈴木 康司
AIは、生産性だけでなく、付加価値と創造性を変える
AIは定型業務を効率化するだけでなく、情報へのアクセスを広げ、仮説形成や創造性にも影響を及ぼす。同じ専門性を持つ人でも、AIとの組み合わせによって生み出せる成果は変わる。経営にとって重要なのは、既存業務をどれだけ効率化できるかだけではない。AIを含む新たなケイパビリティを、どの事業・顧客価値へ振り向けるかである。今あるスキルを棚卸しするのではなく、未来の事業に何が必要かを先に定め、その必要性に照らして現在地を見ることが求められる。

成長領域へ動かすべきものは、人材だけではない
ケイパビリティとは、企業として成果を生み出すための総合的な実行能力である。人材・経験に加え、AI・テクノロジー、プロセス・データ、外部専門家、パートナー・ネットワークを含む。
新事業や成長領域へ進む際、不足を採用だけで埋めるのではなく、人、AI、外部専門家、パートナーをどう組み合わせるかを考えることが必要だ。これは人員計画の拡張ではない。どの能力を自社で保有し、どの能力を外部から獲得し、どこへ資源を移すかという、事業ポートフォリオと資源配分に直結する経営判断である。

固定された組織・仕事・社内人材から、ミッション起点のケイパビリティ組成へ

これから企業が行うべきことは、実現すべきミッションを起点に、必要な人、AI、データ、外部専門家、パートナーを機動的に組成することだ。ただし、どれだけAIや外部リソースを活用しても、成果責任を負う主体は人である。今後、AIがどんなに進化したとしても人を不要にする考え方ではない。人は引き続き成果責任を負い、意思決定、合意形成、変革実行へ集中することが求められる。
グローバルHRの役割進化を、バージョン1からバージョン4で捉える
ここでいう「未来」とは、現在の事業や人員構成を延長した中期計画ではない。例えば2040年や2050年といった中長期で、自社は何者でありたいのか。誰にどのような価値を提供し、どのような形で世界や社会に貢献する企業でありたいのか。経営者がその未来像を構想し、そこで必要となるケイパビリティを逆算して定義する。バージョン4への移行自体が目的なのではなく、実現したい未来の事業と企業の姿が先にある。
本稿で用いるバージョン1~4は、コーン・フェリーがグローバルHRの役割進化を理解するために整理した呼称である。これは人事施策の高度化だけを示すものではない。管理、共通化、可視化という基盤を用いて、未来の事業に必要なケイパビリティと資源配分を経営が判断できる状態へ進むための役割進化を示すものである。

バージョン4では、基盤ではなく「問い」が変わる

バージョン3の問いは「誰が、どこにいて、何を持っているか」である。バージョン4の問いは「未来の事業に何が必要で、どう組成し、いつまでに準備するか」である。バージョン4はバージョン3を捨てる話ではない。バージョン3の基盤を、未来の事業を実現するために使うのである。
グローバルHRは、未来を実行可能な要件へ翻訳する
事業戦略を決めるのは経営である。しかし、必要なケイパビリティを獲得・構築するには時間がかかる。事業戦略が決まった後にHRが人材を準備する従来型の進め方では、競合である世界のリーディングカンパニーの変化速度に追いつけない。グローバルHRには、構想の初期段階から事業と共に参画し、ありたい姿・戦略を、経営体制・組織、リーダーの期待役割、ケイパビリティ、リソース構成へ翻訳することが求められる。経営には、その情報をもとに、何を保有し、何を獲得し、何を外部と組み、どこへ資源を移すかを判断することが求められる。

HRが事業戦略を決めるのではない。事業戦略を組織・仕事・リーダーシップ・人材へつなぎ、実行可能性と実行速度を高めることがHRの役割である。CEOとCHROが共有すべき問いは、人が何人必要かだけではない。戦略を実現するために何が必要で、何が足りず、どこから獲得し、いつまでに準備するかである。
未来を議論するためのグローバル共通言語
未来から逆算するには、世界中の仕事と人材を比較できる共通言語が必要である。それがジョブ・アーキテクチャーで、仕事を「成果責任の大きさ」と「仕事の種類」で整理し、各ジョブにサクセスプロファイルを定義する。

サクセスプロファイルとAI Impact Scoreが、バージョン4を支える
サクセスプロファイルは、各ジョブの成果責任と、成功に必要なスキル、コンピテンシー、経験等を定義し、評価・配置・育成・採用の共通基準となる。AI Impact Scoreは、役割や責任に対するAIの影響を分析・可視化し、見直すべき役割を明らかにする。

未来の事業に向けて、サクセスプロファイルを更新し続ける
AI Impact Scoreが未来の仕事や必要人材を自動的に決めるものではない。設計の起点は、将来の事業構想と必要なケイパビリティである。現在のサクセスプロファイルとAIによる影響分析を判断材料として、人が担う価値、未来の成果責任、必要となる経験・行動・能力を設計する。

世界の「今」を見るHRから、世界の「未来」を実現するHRへ
バージョン3は、世界の職務・等級・スキル・人材という現在地を見えるようにした。バージョン4は、その基盤を使い、未来の事業に必要なケイパビリティを定義し、人、AI、外部専門家、パートナーをどう組成するかを経営判断へつなげる。これは人事機能の高度化ではなく、事業戦略の実行確度と変革速度を高める経営能力である。

バージョン3を全社で完成させてからバージョン4に進む必要はない。バージョ3の完成を待つのではなく、重要事業、新規事業、重要職種など、重要な事業戦略に直結する領域をパイロットとして選ぶべきである。そこで未来に必要なケイパビリティと現在との差を明らかにし、構築・獲得・外部活用の選択肢と必要時期を議論することから始められる。
グローバルHRの役割は、現在の人材を管理・可視化することにとどまらない。未来の事業に必要なケイパビリティを事業と共に定義し、その実現に必要な仕事・リーダーシップ・人材へ翻訳することである。CEOとCHROには、ケイパビリティを人事課題ではなく、戦略実行と資源配分の共通言語として扱うことが求められる。
