【講演録】M&A後の価値創造を実現する経営人材の見極め方

【講演録】M&A後の価値創造を実現する経営人材の見極め方

買収直後の事業安定化に向けたリテンションから、中長期の価値創造を見据えたサクセッションまで、一連の経営人材戦略について考察します。

コーン・フェリーでは2026年9月8日に「M&A後の価値創造を実現する経営人材の見極め方」と題するオンラインセミナーを開催しました。以下はその講演録です。

 

コーン・フェリー・ジャパン

シニア クライアント パートナー 島田 圭子

シニア クライアント パートナー 鈴木 康司

 

M&Aを行なったものの、期待したほどには企業価値が上がらない、というケースは少なくない。そこに共通するのは、プロセスを重視するあまり、大事なものを見落としているということだ。それを「戦略軸」という観点から紐解いていきたい。[KM1] 

  

ディールクローズは、価値創造のゴールではない

M&Aでは、DD(デューデリジェンス)、契約、クロージング、Day 1、PMI(ポストマージャ―インテグレーション)と、期限内に完遂すべきタスクが連続する。工程管理は不可欠である。しかし、工程を円滑に進めることと、企業価値を生み出すことは同じではない。買収後にどの事業を実現し、どの価値を生み出すのか。そのために、どの経営体制で、誰が何に責任を持つのか。これらが曖昧なままでは、PMIは進んでも、価値創造に必要な経営判断は進まない。

図表1 工程軸|いつ、何を進めるか

工程軸に、戦略軸を重ねる

M&Aを企業価値へつなげるには、工程軸と並行して、価値創造仮説、経営体制、役割、リーダーシップ要件、アセスメント、人材判断を一貫して検討する必要がある。重要なのは、アセスメントやサクセッションを早く実施することではない。先に「誰を見るか」ではなく、「何を実現するために、どのような経営体制と役割が必要か」を定義することである。

図表2 二つの軸を重ねる|戦略テーマは工程の早い段階から始まる

 「誰を残すか」ではなく「何を実現するか」

クロスボーダーM&Aでは、現経営者のリテンションは重要なテーマである。ただし、リテンションは目的ではなく、事業戦略を実現するための一つの手法である。Day 1の安定、顧客関係の維持、技術・知識の移転、後継者育成など、何を実現するために、誰を、どの期間リテインするのかを明確にする必要がある。

サクセッションも後任探しにとどまらない。将来の事業から逆算して、必要な経営体制、経営チーム、役割、人材要件を定義し、登用・育成・補強・交代を検討する経営プロセスである。

 

 アセスメントは「選別」ではなく、仮説・検証・開発のプロセス

DD期間中に本格的な人物アセスメントを行うことは容易ではない。一方、マネジメントプレゼンテーションや経営陣との対話から、意思決定の所在、経営チームの機能、キーパーソン依存、変革への意思について仮説を持つことはできる。

クロージング後は、実際の経営環境の中で、意思決定の質とスピード、経営チームの相互補完性、DDで見えなかった組織課題を検証する。さらにアセスメントは、経営者自身がリーダーシップを振り返り、強みと開発課題を理解する機会にもなる。評価で終わらせず、フィードバックやコーチングにつなげることで、買収後の役割で成功するための投資となる。

図表3 クロージング前に仮説を持ち、クロージング後に検証する

人事は、経営メンバーとしてM&Aの初期段階から関与する

人事には、M&Aの初期段階から経営メンバーとして議論に参画することが求められている。人事は、この買収でどのような価値創造を実現するのか、そのためにどのような経営体制が必要なのか、どのようなリーダーシップが求められるのかという経営課題を議論する必要がある。

M&Aにおける人事の役割は、人材や組織に関する論点を整理することに留まらない。事業戦略を経営体制、役割、人材要件へ翻訳し、経営判断を支えることが期待されている。

 

おわりに

これまで述べてきたように、M&Aは事業戦略実現のための手段の一つにすぎない。その成否を分けるのは、工程管理の巧拙だけではない。買収後にどの価値を創造するのか。そのためにどの経営体制が必要か。どのようなリーダーシップと人材が必要か。戦略を組織と人へ落とし込み、実行・検証・修正できるか。それこそが、買収後の企業価値創造を左右する。