【講演録】著者が語る『「働きやすさ」を超える組織と人のエンゲージメント』講演録

【講演録】著者が語る『「働きやすさ」を超える組織と人のエンゲージメント』講演録

新刊書『「働きやすさ」を超える組織と人のエンゲージメント』の著者が、今、日本企業に必要な論点を語ります。

コーン・フェリーでは2026年6月16日に「著者が語る『「働きやすさ」を超える組織と人のエンゲージメント』講演録」と題するオンラインセミナーを開催しました。以下はその講演録です。録画は< https://vimeo.com/1203897551/bad5e55fb6?share=copy&fl=sv&fe=ci >でご覧いただけます。

コーン・フェリー・ジャパン アソシエイト クライアント パートナー 岡部 雅仁

■「働きやすさ」に偏重しているエンゲージメントの取り組み

2026年6月に『「働きやすさ」を超える組織と人のエンゲージメント』と題する本を出版した。そこで、このセミナーではその本の内容や活用方法についてご紹介する。エンゲージメントの基本的な考え方については、 【講演録】 “何が企業間の差を生み出すのか” -26年最新データから紐解く日本企業の従業員エンゲージメント水準の分岐点 を参照いただきたい。

まずは本書の執筆背景からお伝えしたい。従業員エンゲージメントを担当してから10年ほどが経過したが、その10年を振り返ると大きく3つのフェーズがあったと言える。コロナ前、コロナ最中、コロナ後だ。

コロナ前、エンゲージメントは一部の先進的企業しか取り組んでおらず、社員満足度調査と混同されることもあった。そこへコロナ禍によって在宅勤務を導入せざるを得なくなり、社員の状態が見えなくなった。働き方の多様性を確保しないと事業が回らず、エンゲージメント調査を含む多くの改革が進んだ。同時に2020年に発行された人材版伊藤レポートに代表される人的資本経営への取り組みが進展し、従業員エンゲージメントという概念が日本企業に一気に浸透した。

そして現在のコロナ後では、働き方の多様性や自律的キャリア開発といったコロナの最中に起こった従業員目線の取り組みが継続している。これ自体は良いことだが、一方で副作用もあると考える。それが活動の重心が「働きがい」よりも「働きやすさ」に偏っていることだ。エンゲージメントと言えば働きやすさや福利厚生という考えで固定化されてしまっている。活動の主体も人事部と個別職場となってしまい、比較的小さな取り組みに限られてしまっている。「働きやすさ」はもちろん大事だが、それが「働きがい」へとつながり、事業部門長や経営層も巻き込んだ大きなうねりにならないと事業戦略は実現できない。この現状を認識してもらい方向転換を促すことが、本書の執筆背景となる。

■エンゲージメントを人事施策から経営アジェンダへ

本書は、働きやすさから働きがいへ、さらには人事部単独ではなく経営が動くこと、にフォーカスして構成している。そこで本書内でも紹介しているが、本セミナーではどうすればエンゲージメントを人事施策から経営アジェンダへと上げることができるかを簡単にご紹介したい。大きく3つの段階に分けて言えば、1.現在地の認識、2.ボトルネックの特定、3.本質的な解消策、となる(図表1)。

図表1 エンゲージメントを人事施策から経営アジェンダへと昇華させる3段階

第一段階である現在地の認識について、セミナー参加者に投票(単一選択)を依頼したところ以下のような結果となった(図表2)。最も多かったのが「現場管理職によるチーム単位の改善活動」で、その次が「人事部主導の全社施策」だ。 やはり、まだまだ人事と現場による取り組みが重心としては多いという分布状況だということが、本セミナー参加者の回答からも裏付けられた。

図表2 投票:エンゲージメント活動の重心は現在どこにあるか?

■経営層を巻き込む上で大事な視点

現状を認識した上で、次は経営に動いてもらうためにどうするか。経営層と議論するときに大事なポイントとなるのが、エンゲージメントが社員一人ひとりのやる気や社内の雰囲気の問題ではなく、財務業績に関わる経営指標だということを理解してもらうことだ。

コーン・フェリーでは毎年、日本企業も含め500~600社ほどの企業のエンゲージメント調査を実施しているが、開示されている財務指標と照合すると、概ねエンゲージメント水準が上位の企業の方が財務業績も高いということが見て取れる。人事部が経営と議論する際は、働きがいと財務業績は密接につながっているという構造があることを伝えると話がかみ合うケースが多い。

そして経営陣がエンゲージメント向上のために取り組むべき観点を、5つの課題領域という形で整理した。1つ目が「経営の舵取りの質・スピード」だ。自社がどこに向かっていくのか、何をしていくのか・しないのか、どう進んでいくのかを明示しているか。人によってエンゲージメントを感じるポイントは違うが、この戦略や方向性はエンゲージメント醸成の一つの基盤となる。2つ目が「CX(顧客体験)・EX(従業員体験)両輪への投資」だ。これがCXに偏ると従業員の不満が高まり、逆にEXに偏ると事業成果につながらなくなってしまう。この両輪にバランスよく投資して改善していくことがポイントになる。3つ目が「業務基盤のトップダウン改革」とあるが、仕事の進め方や組織体制が戦略に紐づく形でアップデートされているかという点だ。4つ目が「自発性を喚起する人事制度」で、経営的な視点からトップダウンで下ろすのではなく、社員一人ひとりが自発的に取り組むような制度となっているか。最後の5つ目が「事業成果の透明な分配」で、利益が出たときにきちんと還元されるか。4つ目と5つ目は個人個人のエンゲージメントに特に大きな影響を及ぼす。

これら5つの課題領域のどこがボトルネックとなっているのか、自社の状況を振り返ることが重要となる。この点についてもセミナー参加者に投票(単一選択)をしてもらったところ、「経営の舵取りの質・スピード」と「業務基盤のトップダウン改革」の2つが特に多いという結果になった(図表3)。これらに共通するのは人事部ではできないということで、エンゲージメントを向上させるには経営を巻き込むが必要があることを示している。

図表3 投票:5つの課題領域のうち最もボトルネックになっているのは?

■ボトルネックの本質的な解消策

最後の第3段階が、ボトルネックの解消となる。コーン・フェリーが実施しているエンゲージメント調査を分析して好業績企業とそうでない企業の差異を分析すると、やはり上流にある経営の舵取りやリーダーシップといった指標へと行き着く。リーダーシップというのは経営への信頼のため、ここが伸びるとその下流にあたるプロセス、リソース、協力体制といった指標も伸びてくる。つまり、この上流部分を高めていかないと、人事部や個別職場だけの限定された改善活動を超えたエンゲージメントの本質的な改善活動にはならないということだ。

この活動は人事部門から始まり、経営層に入り込み、そこから事業部門へと下りていくというのが適切な順番となる。だが、この経営層にオーナーシップを持ってもらうというのが大きな課題となりがちだ。ここでもセミナー参加者に投票(単一選択)をお願いした。すると「経営層・管理職の間でエンゲージメントに対する認識や本気度にばらつきがある」が突出して多い結果となった(図表4)。経験値からもこれが日本企業の現状を反映したものだと言える。ここ3年ほどの調査結果を見ても、この経営層のオーナーシップがある企業はエンゲージメント水準が向上しているというのは明らかだ。

図表4 投票:エンゲージメント改善策が進まない要因は?

具体的なエンゲージメント向上策は本書に書いてあるので、ぜひ経営者や人事の皆様にお読みいただき、より大きなムーブメントを起こすための参考にしていただければ幸いだ。