【講演録】“何が企業間の差を生み出すのか”-26年最新データから紐解く日本企業の従業員エンゲージメント水準の分岐点

【講演録】“何が企業間の差を生み出すのか”-26年最新データから紐解く日本企業の従業員エンゲージメント水準の分岐点

コーン・フェリーでは2026年5月19日に「“何が企業間の差を生み出すのか”-26年最新データから紐解く日本企業の従業員エンゲージメント水準の分岐点」と題するオンラインセミナーを開催しました。以下はその講演録です。

コーン・フェリー・ジャパン

アソシエイト クライアント パートナー 岡部 雅仁

■グローバルおよび日本企業の社員エンゲージメント水準最新動向

コーン・フェリーでは世界中でエンゲージメント調査を実施しており、そのデータを毎年集計化している。そこで、本セミナーでは2025年度の最新のグローバル企業約500社と大手日本企業100社のエンゲージメントデータの比較分析から、日本企業の従業員エンゲージメント向上活動の現在地と、何がエンゲージメント水準の差異を生み出しているのかをご紹介したい。

まず、社員エンゲージメントに関する基本的な枠組みを簡単にご紹介する。コーン・フェリーでは「社員エンゲージメント(Engagement)」と「社員活かす環境(Enablement)」の2つの指標を測っており、この2つが向上することで財務業績にもインパクトを与えることを確認している。その2つの指標を構成するのが12の原因系カテゴリで、50~70問程度の設問を通じてこれらを計測する。

2025年度(2026年前半までを含む)の直近の平均値を過去と比較する形でお見せしたい(図表1)。「社員エンゲージメント」については好業績企業平均(High Performing)、グローバル平均(General Industry)、日本平均(Japan)いずれも昨年度と比べ横ばいとなっている。一方で「社員を活かす環境」は、好業績企業平均が若干下がっており、日本平均(Japan)は1ポイント改善している。これは適材適所や働きやすい環境の整備といった取り組みが改善に寄与したものと評価できる。

図表1 「社員エンゲージメント」と「社員を活かす環境」の推移

好業績企業、グローバル、日本の平均をレーダーチャートで比較してみた(図表2)。すると差が大きいのは「業務プロセス・組織体制」「戦略・方向性」という上流部分と、「リソース」という下流部分であることが分かる。この傾向はここ5~6年ほど続いている。日本平均の昨年比を見ると全体としてはわずかながらも改善傾向にあると言える。

図表2 原因系カテゴリの好業績企業、グローバル、日本平均の比較

その他、昨年度データとの比較で特筆すべき点を挙げると、日本平均については「成長の機会」「個人の尊重」「権限・裁量」の3つのカテゴリが小幅ではあるものの改善したこと。少しずつではあるが“個を尊重する”職場環境の構築が前進していると言える。

■日本企業間の社員エンゲージメントの分岐点

ここからは日本企業各社の間のばらつきを通じて、エンゲージメントが高い企業とそうでない企業の分岐点がどこにあるかを探っていきたい。各社間で水準のバラツキが大きいカテゴリトップ3は、「教育・研修」「戦略・方向性」「リーダーシップ」となっている。この中で「教育・研修」はもちろん高い方がいいものの、この高低と全体水準の高低は必ずしも一致しておらず、独立したスコア分布を見せているのが特徴だ。

つまりエンゲージメント水準を大きく分けているのは、「戦略・方向性」と「リーダーシップ」の2つということになる。この2つ自体が相互に相関関係を示しているほか、これらが高いと他の項目も引っ張られるように高くなるという特徴があり、エンゲージメント水準の土台となる最重要指標だと言える(図表3)。具体的に「リーダーシップ」というのは、経営陣のかじ取り、経営陣に対する信頼、オープンな情報開示といった要素。「戦略・方向性」というのは、企業の戦略目標に対する納得感、業務と戦略との紐づけ、自社の今後の見通し、環境変化への対応といった要素で構成される。つまり、経営陣の行動や考え方と、そこから生まれてくる全社レベルの戦略や方向性というのが、エンゲージメント水準の分岐点となっている。

図表3 最重要指標「リーダーシップ」と「戦略・方向性」

■経営層の役割と財務インパクトへの接続ストーリー

ここからは、人事目線ではなく経営層がエンゲージメント向上にできることをお話ししたい。全社レベルにおいては、人事ではなく経営層の関与が非常に強い影響力を持つ。経営層がエンゲージメント向上のために取り組むべき課題領域を5つ特定し、12の原因系カテゴリをプロットしてみた(図表4)。

最初に来るのは、やはり「リーダーシップ」と「戦略・方向性」。経営のかじ取りの質やスピードがすべての起点になるためだ。次に来るのが、CX(顧客体験)とEX(従業員体験)への投資、つまりお客様と社員にきちんと投資していくこと。日本企業はもともと「品質・顧客志向」へのこだわりは高いが、それが過剰になると「個人の尊重」が棄損されかねない。そこで最近ではCXとEXを高いレベルで両立する状態を目指すことが求められている。3つ目が業務基盤の改革で、原因系カテゴリで言えば「業務プロセス・組織体制」「リソース」「協力体制」となる。いくら経営層が期初に目標を設定しても、それが現場に反映されなければ社員に変化は起きない。ここまでやったところで、4つ目の人事的な領域となる。事業の中から生まれてくる機会に社員自らが手をあげられるようにするなど、自発性を喚起するような人事制度を設計していく。そして最後は、事業成果の透明性高い分配となる。利益が出たときに、自社株買いに回しても株主にしか還元されないので、社員にもきちんと分配するということ。そうしないと優秀な人材から辞めていくことになりかねない。

図表4 経営陣がエンゲージメント向上のために取り組むべき5つの課題領域

こういった活動を通してどう財務インパクトへと接続していくのか。ボトムアップで構造そのものに影響を与えるのは難しいため、会社全体のエンゲージメント水準を向上させるには上からの方向性が大事となる。重要なポイントとして、経営戦略の実現のために強化すべき原因指標があり、それが結果的にとエンゲージメント向上につながるという発想の転換を持つことだ。エンゲージメント数値をあげるためだけの過度な取り組みは社内を疲弊させかねない。また、自社にとって優先度の高いインパクトパス(道筋)は何か、仮説を設定しPDCAを回していくこと。

ヒト・モノ・カネ・情報という経営資源の中でヒトだけは可変性がある。つまりヒトは意欲が高ければアウトプットの質もも高まるということ。どこにてこ入れすることで財務インパクトを創っていくか、自社で模索いただきたい。

■Q&Aセッション

Q1 経営層がエンゲージメントを自分の課題と受け止めてくれない。

A1 ある程度の規模の企業では「リーダーシップ」を見る際も、全社レベル水準と部門ごとの水準の両方を見ていくといい。同じ設問なのに部門によって高低の差があれば、それは部門のリーダーシップに差があると考えるのが妥当だ。このように出てきた結果を解釈することで必要な対応を取るようにすれば、責任転嫁せずに向き合うのではないか。

Q2 グローバル平均と日本平均の違いは「業務プロセス」や「リソース」にあると思うが、本質的な違いは何か?

A2 「戦略・方向性」「リーダーシップ」「組織体制」は実際には双方に影響を与え合っている。元をたどれば「事業戦略」が「業務プロセス」を形作っている。つまり、上流が変わらないと下流も変わらないということ。戦略が変わるとプロセスもアップデートされるが、それが従業員全体に伝わるよう一人ひとりの業務に落とし込むことが必要になる。

Q3 経営を巻き込むために人事としてできるアクションを一つ挙げるとすれば何か?

A3 ボトムアップでできる人事や職場のアクションと本件のようなトップダウンの経営アクションを分けて議論することが有効。本件のような内容については、まずは経営層の目線合わせが必要なため、役員合宿や幹部研修等、長期重要な経営テーマについて議論をする場所でエンゲージメントを取り上げ、目線合わせを行うことは有効なアクションの一つ。

Q4 事業戦略を進めることでエンゲージメントが高まるのであれば事業KPIを見ればよいのではないか?

A4 財務KPIと非財務KPIは並行で見ていく必要があり、財務業績は好調だがエンゲージメントは低いということもある。業績成果に対する社員への分配や貢献の認知が不足しているような企業ではこのような状態が起こりえる。そのような状態を放置すると貢献度の高いハイパフォーマの意欲低下による離職につながるため、財務・非財務の視点を持つことがサステイナブルな経営につながる。

Q5 弊社では、エンゲージメントとは社員満足度や働きやすさと捉えられてしまっている。

A5 末端の社員一人ひとりにとっては、エンゲージメント調査は年に一度程度のイベントなので、社員全員に正しい言葉の定義や理解を浸透させるのは難しい。大事なのは結果を踏まえてアクションを行う経営層や事業長が正しい理解を持っていることであり、この点については人事からの啓蒙活動を粘り強く行っていく必要がある。

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