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Skip to main contentコーン・フェリーでは2025年5月15日に「“開示”から“活用”へ、最新データから紐解く日本企業の従業員エンゲージメントの課題と対策」と題するオンラインセミナーを開催しました。以下はその講演録です。録画は< https://vimeo.com/1084582195 >でご覧いただけます。
コーン・フェリー・ジャパン アソシエイトクライアントパートナー 岡部 雅仁
人的資本経営の要請から、多くの日本企業が従業員エンゲージメント調査を実施するようになって数年が経過した。ただ、調査を実施してデータを取ることが目的化しており、肝心のエンゲージメントや組織風土を向上させるための活動が疎かになっている企業も少なくない。本セミナーでは、日本企業の従業員エンゲージメント向上活動の現在地と、エンゲージメントを更に高めていくための方策を紹介したい。
■エンゲージメント水準のグローバル最新トレンド
コーン・フェリーでは毎年、グローバルでのエンゲージメント調査から得られたデータを集計している。今年は516社、825調査、710万人分のデータを分析した。私たちのエンゲージメント調査では、「社員エンゲージメント(Engagement)」と「社員を活かす環境(Enablement)」の2つの指標を測定する。その結果、どちらの指標もここ数年上昇傾向にあったものの、今年は微減もしくは横ばいになっているのが見て取れる(図表1)。これはグローバルも日本も同様だ。コロナ禍を経て企業がエンゲージメント向上活動に注力するようになり、それが成果を生んでいたのが、落ち着きつつある状況だと言える。
▼図表1
より具体的な中身について、原因系カテゴリーや設問といった項目を深堀して見ていく。コーン・フェリーが定義する好業績企業の平均では、改善した項目は非常に限られており、低下した項目の方がはるかに多いという結果になった(図表2)。具体的には「オープンな情報開示」「必要な福利厚生の提供」「期待される成果の理解」といった従業員が全社的な方向性を理解するための項目が大きく低下している。経営からの情報発信が不足していると言えるのではないか。
一方で日本平均に関して言えば、絶対値としては世界平均よりも低いものの、低下よりも改善した項目の方が多いという結果になった。特に「品質への責任」「協力・リソース共有の風土」といった従来日本企業の強みとされてきた項目は、若干ではあるが改善している。逆に低下したのが、「2~3年の見通し」「担当業務と戦略・目標の関係理解」といった、こちらも全社的な方向性に関するもの。例年、日本平均をグローバル平均や好業績企業平均と比較すると明確なコントラストを描くことが多いが、今年については、世界中の企業が政治経済の不透明感や変化のスピードが増す中で経営のかじ取りに苦戦していることが分かる。戦略に対する信頼感の醸成というのが共通の課題だと言える。
▼図表2
■日本企業のエンゲージメント施策は次のステージに
日本企業の中でも、毎年エンゲージメントを計測し改善活動を展開している企業だけに限って直近3年の変化を見てみた。すると50%が「社員エンゲージメント(Engagement)」が向上した一方で、停滞および低下している企業も50%という結果になった。改善活動が実を結んでいる企業とそうでない企業とに、はっきりと二極化しているのが現状だ。
ここから言えるのが、エンゲージメント活動の主眼が調査後の実行に移ってきているということ。エンゲージメント調査の結果から明らかになった課題に対して、企業として改善活動に取り組んだかを従業員は見ている。それが翌年の調査に反映され、数値に表れる。この時、施策の精度はともかくとして、企業側に組織風土改善活動に取り組もうという意欲があると認知されることが重要だ。
そして職場環境の改善や適所適材を実践し一定の成果が出たことで、次はいかに本丸である会社への帰属意識と自発性を高めていくステージへと移行しつつあるのが、エンゲージメントが向上している企業に共通してみられる傾向だ。
■日本企業に不足する経営陣の戦略とリーダーシップ
日本企業に不足する要素を世界との比較の中で指摘してみたい。日本平均と好業績企業平均・グローバル平均と比較したときに特に差が大きいのは「戦略・方向性」「リーダーシップ」および「業務プロセス・組織体制」「リソース」「協力体制」といった項目だ(図表3)。特にリーダーシップというのは、全社レベルでエンゲージメントを高めていこうとしたときに最も着目すべきポイントとなる。日本企業は一般的にボトムアップでの動きが強く、全社レベルでの方向性やかじ取りに課題がある。すると、それに紐づく形でその下流にある「業務プロセス・組織体制」「協力体制」「リソース」といった項目にも影響を及ぼすことになる。これは日本企業に共通する骨太の課題だ。
▼図表3
■若手のエンゲージメント向上に一定の成果
ここ数年のエンゲージメント向上活動にどういう効果があったのか。それを検証するために年齢別のエンゲージメント水準の推移を分析してみた。すると、希少性が高い上に流動性も高まっていることで大切にされがちな若手のエンゲージメント値が向上しているのが見てとれる(図表4)。これは新卒の給与を上げることを含め、若手の処遇を改善する施策が一定の成果を発揮していると言える。しかし、このような施策はともするとポピュリズムに陥りがちなため、注意が必要だ。また、入社10年以上が経過したいわゆるミドルやシニア層のエンゲージメント水準については、横ばいもしくは低下している。企業全体の水準を向上させるために取り組む局面にあると言える。
▼図表4
■エンゲージメント向上活動のポイント
取り組みを進める上での大きな方向性を提示したい。企業によっては現場中心のアプローチになってしまったり、人事部が全て抱えて制度で変えようとしたりしているのが現状ではないか。最も健全なのは、組織階層ごとにオーナーシップが移っていくというような流れだ。そのためには職場単位、事業部単位、会社単位でできることを整理する必要がある。そして各組織の長がオーナーシップを持つというものだ(図表5)。
最近だとジョブ型を導入して、手挙げ制によって働く組織を選べるようにしたりして、お互いに「選ぶ・選ばれる」関係性を作り上げている企業がある。それに対し、例えば毎年黙っていても新卒社員が配属されるような運営だと、組織単位で人材流動性が停滞しオーナーシップが生まれにくい。すると各組織の長も、自分の事業に対してオーナーシップを持ちにくく、リーダーシップも発揮できないためにいい人が集まってこなくなるという悪循環に陥りかねない。オーナーシップを段階的に拡大させていき、健全な緊張感を保たせることでリーダーシップの厚みを増していくというのが、エンゲージメント向上活動のポイントとなる。
▼図表5
■Q&Aセッション
Q1 eNPS(Employee Net Promoter Score)という概念についてどう考えるべきか?
A1 eNPSは自社への愛着度と他者にどれくらい推薦したいかを測るものだが、一般的にはエンゲージメントの中にNPSの考えが入っていると認識されている。仕事への愛着度を表すワークエンゲージメントではなく、会社への帰属意識と自発性を発揮する度合を表す従業員エンゲージメントの場合、NPSに関連する設問も包含している。
Q2 海外現地法人も含めグローバルでエンゲージメント調査を実施する上でのポイントは?
A2 人的資本経営ではグローバル連結での数値を見る。また、企業によっては海外従業員の方が多かったりする。そのため、海外展開している日本企業の多くはグローバルでも調査実施している。その際、最初の数年は国内で実施し、型を作った上でグローバルに拡大していくというのがお勧めだ。
Q3 エンゲージメント調査結果を経営陣に伝えたところ、「結局何が課題なのかが見えない」というフィードバックを得た。経営陣に説明する際のポイントは?
A3 経営陣は株主やマーケットと対峙しているので、他社と比較した自社の強み・弱みはという点が刺さるのではないか。その際、数字で比較することがカギとなる。例えば、他社と比較して「戦略・方向性」が〇ポイント低い、自社の1年前と比べて〇ポイント上がった、どこの拠点が数値が高い、などだ。比較すること自体が目的ではないものの、ベンチマークと比べることで輪郭がよく見えるようになり、対策を打てるようになる。別の観点として、人事部など内部の人間だと率直な話がしにくということもあるかもしれないので、外部の者に指摘してもらうというのも手だ。
Q4 エンゲージメント水準が高い企業はどれくらいの頻度でエンゲージメント調査を実施しているのか?
A4 年に一度調査を実施し、改善活動を展開するというのがベストプラクティスだ。事業部単位でもっと頻繁により手軽なパルスサーベイを実施する場合もある。数年に一回になると、担当が代わってしまい、引継ぎがうまくなされないなどの懸念も生じる。
Q5 若手のエンゲージメントを向上させる施策は効果が出ているという話があったが、シニア層に対するアプローチでよい成果を出すには?
A5 シニアの定義にもよるが、再雇用を含めた処遇面でシニア層が放置された状態のままの企業は少なくないので、きちんと対応することではないか。シニア層でも成長意欲や貢献意欲が衰えていない人は多いので、一定の年齢層で区切って十把一絡げに処遇するのではなく、パフォーマンスに応じて処遇に差をつけるといったことが必要となる。
Q6 グローバルで調査を実施すると、どうしても日本が低く出てしまう。国民性というのはあるものか?
A6 エンゲージメント水準というのは国によって異なるもの。そのため、例えば自社内のアメリカと中国といった国を超えた比較というのはあまり意味がなく、国別のベンチマークを参照することが大切だ。