【講演録】グループ従業員8万人で6ポイントの進化、三菱重工グループのエンゲージメント改革

コーン・フェリーでは2025年12月4日に「グループ従業員8万人で6ポイントの進化、三菱重工グループのエンゲージメント改革」と題するオンラインセミナーを開催しました。以下はその講演録です。

 

登壇者

  • 三菱重工業(株) 民間機セグメント 企画管理部 HRBPグループ 主席部員 齋藤 健 氏
  • 三菱重工業(株) HR戦略部 ワークスタイル変革グループ エンゲージメントチーム 上席主任チーム統括 松田 悠平 氏
  • コーン・フェリー・ジャパン クライアント リレーションシップ マネジャー 白井 基記

 

■エンゲージメントと企業業績との相関

エンゲージメント向上に悩む企業が多い中、三菱重工業グループ(以下MHI)は社員数約8万人という規模にもかかわらず、ここ数年でスコアを非常に高く向上させている。その秘訣をMHIの本社HRと現場推進担当の2名が、本社と現場という両方の視点から実践的なアプローチを紐解いた。

コーン・フェリーでは10年近く前からMHIの社員意識調査やエンゲージメントに関する取り組みを支援している。まずはコーン・フェリーの白井が、MHIの事例を理解する上で前提となるエンゲージメント調査の基本的な枠組みを紹介した。

コーン・フェリーが重視しているのは「社員エンゲージメント(Engagement)」と「社員を活かす環境(Enablement)」という2つの指標で、それぞれ「働きがい」と「働きやすさ」と言い換えることができる。これらは企業業績と相関関係があることが様々な実証研究から明らかになっている。中長期のスパンで見た時に、売上やEPS(Earnings Per Share/1株当たり純利益)といった業績指標に明らかな差が出てくるのだ(図表1)。まずはこの2つの指標を測定していくことが競争力向上の出発点となる。

▼図表1 「社員エンゲージメント」と「社員を活かす環境」と業績との相関

これら2つの指標は様々な要因によって上がったり下がったりする。例えば「戦略・方向性」「リーダーシップ」「品質・顧客志向」などは「社員エンゲージメント」に強く影響を及ぼす原因指標となる。こういった項目が「社員エンゲージメント」と「社員を活かす環境」それぞれ6つの計12ある原因指標カテゴリと呼ばれるものだ(図表2)。これらを設問項目に落とし込んで可視化していく。

▼図表2 「社員エンゲージメント」と「社員を活かす環境」に影響を及ぼす原因指標カテゴリ

■MHIの事例において注目すべきポイント

白井はMHIの事例において特に注目すべきポイントを3つ挙げた(図表3)。

1つ目は、経営戦略を実現するための人事戦略の柱の一つとして社員エンゲージメントを位置づけていること。単なる人事施策ではなく、企業成長を支える基盤として、組織内外に一貫したメッセージを発信しているのが特徴的なポイントだ。

これは2つ目のポイント、好業績下においても高い経営陣・管理職のコミットメントにもつながっている。業績好調時にはエンゲージメントに関する取り組みの優先度を下げてしまう企業も見られるが、MHIは業績好調下においても経営陣も管理職もこの取り組みに優先的にコミットしている。これが長期的な組織力向上につながっている。

3つ目は、やるべきことを正しくやりきるということ。エンゲージメント調査を通じて拾い上げた社員の声をきちんと踏まえた上で施策設計を徹底。さらには、トップダウンや人事主導で走るのではなく、現場に当事者意識を持たせているのだ。

▼図表3 MHIの事例において注目すべき3つのポイント

■MHIの事業構成とHR戦略

ここからは、MHI本社HR戦略部の松田氏が、MHIの会社説明と全社的な観点からのエンゲージメントの取り組みについて述べた。

MHIはグループ売上高が約5兆円 、グループ従業員数が約80,000人で、国内64、海外192ものグループ会社がある。特徴的なのは、「エネルギー・環境関連」「基盤産業」「航空、防衛・宇宙」「GX」という性質が大きく異なる4つの事業領域で構成されていること。それらを横串で通す経営基盤として、研究所などを含む「シェアドテクノロジー部門」、松田氏が所属するHRも含まれる「コーポレート部門」がある。

MHIの経営戦略の実現に向けたHR戦略として掲げているのが「HR Innovation 2030」だ。「Leadership」「Talent」[Organization]「Engagement」という4つの領域に加え、HR戦略を実行するための体制としての「HR Responsibility」という4+1の領域が位置付けられている(図表4)。

▼図表4 MHIのHR戦略の方針(4+1)

■本社HR視点でのエンゲージメント向上への取り組み

MHIではおよそ2年に一度の頻度でエンゲージメント調査を実施している。直近の第5回調査では国内海外グループ会社193社、約80,000人を対象に行った。第4回までは上昇幅が緩やかだったのが、今回はその向上幅が大きなものとなった。

なぜ第5回調査で数値が大幅に伸びたのか。そこには、第4回調査までに出た課題に会社として重点的に取り組んだ成果が表れている。過去の結果を踏まえ、原因指標のうち「戦略・方向性」「リーダーシップ」「(従業員の)成長の機会」の3つをグループの重点課題として設定。これらに注力して改善活動を進めていった。

具体的な活動として、「戦略・方向性」と「リーダーシップ」については、事業部門トップからの情報発信や、社員との対話の機会を増やした。MHIは事業の幅が大変広いため、各事業部門の特色や状況に合わせた取り組みを推進することを意識したという。社員向けの事業説明会は対面だけでなく動画でも配信することで多くの従業員が見られるようにした。幹部と一般社員のタウンホールミーティングを定期的に開催して社員向けの幹部メッセージを直接発信した。その際に重視したのは、経営層と社員の距離を近づけて戦略や会社の将来像に対する理解を深めてもらうということ。こういった活動を通じて戦略や方向性の浸透強化、経営陣への信頼向上を図っていった。

「成長の機会」に関する取り組みとしては、まずはHRが全社的な制度を構築し、既存施策の拡大と新規施策の導入を図った。各事業部門では、部門の課題に応じてさらなる施策を実施という形で推進。例えばキャリア関連教育の充実化の一環として、1on1面談する上司向けの研修や部下本人向けの研修を導入・拡大した。また、少し特徴的なものとして、学位や資格取得のための休職および短時間勤務制度を入れることで、従業員一人ひとりの成長意欲に応え、自律的な学びの意識を醸成していった。

これらの活動の結果はスコアに如実に表れた。「戦略・方向性」と「リーダーシップ」については特に改善の度合いが大きく、例えば「戦略・方向性」に関する設問については約1.15倍の上昇、「成長の機会」についても約1.10倍の上昇が見られた(図表5)。もちろん他の様々な外部要因も影響していることは想像されるが、関係者が一丸となった取り組みが寄与していることは間違いないと考えている。

▼図表5 重点的に取り組んだことで改善したスコア

■スコア上昇への継続的取り組み

このエンゲージメントスコア改善の勢いをこれからも維持し、さらに拡大していくために、どのような活動に取り組んでいるのか。現在取り組んでいるのは、事業部門の実情に合わせて取り組む課題を特定して、経営層、管理職層、社員層、HRが一丸となって取り組むことで、組織風土改革の機運向上、さらなるエンゲージメント向上に繋げていくことだ。

進め方としては、まず①事業部門のトップに対してエンゲージメント調査の結果説明会を行い、調査結果の正確な理解を促す。これが入り口部分となる。次に②事業部門内コミットメント設定支援のワークショップを行い、コミットメントの意義や全体の進め方と注意点を担当者に理解してもらう。続いて③④個別レビューを繰り返し、ワークシートを埋めながら内容をブラッシュアップしていく。ここでは各事業の目標やミッションを踏まえてありたい姿を改めて各組織の人たちに考えてもらうことを意識した。⑤事業部門横断のコミットメント共有会では、お互いに作ったコミットメントの内容を共有して意見交換してより良いものにしていった。そして現在は、⑥コミットメントの事業部門内展開というフェーズにある。⑦の評価は次の調査実施時に振り返り、今後の取り組みにつなげていくことを意図している(図表6)。

▼図表6 エンゲージメントスコアのさらなる向上のための取り組み

■現場視点でのエンゲージメント向上への取り組み

ここからはMHI民間機セグメントのHRBP齋藤氏が、現場担当者の目線でエンゲージメント向上策について説明した。民間機セグメントは主に3つの事業から構成されており、社員は各工場や海外拠点に分散しており、総数は約4,100人となる。2024年度からエンゲージメント向上に本格的に取り組もうと活動を立ち上げ、その結果、最新調査で「社員エンゲージメント」は単体・連結ともに7ポイント余りの上昇、「社員を生かす環境」も単体・連結ともに8~9ポイントの大幅上昇を達成することができた。

活動を取り組むにあたりまず始めたのは、部長以上のセグメント幹部が集まっての議論だ。そこで調査結果、ストレスチェック、コンプライアンス調査といったサーベイの結果を踏まえて各自の状況を分析し、それを持ち寄って自組織の課題を整理していった。そこで整理された課題として、①コミュニケーション不足(質・量)、②リーダーシップの課題、③社員のキャリア形成、④経営状況や会社制度の理解不足、⑤組織体制/業務プロセス、⑥職場環境(ハード/ソフト)の6つがある。①~④に対しては、組織における信頼関係を構築することが最初に取るべきアプローチだと考え、対話機会の創出強化、管理者への教育機会の提供、セグメントHRBPからの発信の強化などを進めていった。⑤組織体制/業務プロセスについては出てきた要望に対して順次対応し、⑥職場環境についても計画的に予算をつけて、できるところから改善していった。

より具体的な取り組みとしては、以下のようなものを組織横断的に行っていった(図表7)。1on1ミーティングは、それを支援するツールを導入したほか、セグメント長自らも役職者全員にやることで範を示した。タウンミーティングでは、セグメント長自らが役職者全員を集めて社員との対話の機会を増やしていった。事業方針説明会は幹部メッセージの配信となる。女性ネットワーキング活動立ち上げとリーダーシップ研修では、マネジメントに必要なスキルをセグメント独自で身につけようとロールプレイを中心に実践的なマネジメント研修を設定し、全役職者が受講した。会社制度の説明会では、本社HR部門協力のもと、会社の規則や概要を説明する機会を設けた。

▼図表7 具体的なエンゲージメント向上への取り組み

現在もエンゲージメント向上活動は継続的に行われている。2024年度に実施した6つの取り組みに加えて、課題となっていた従業員の成長機会を拡充させるべく民間機HR戦略会議というものを立ち上げ、組織力強化、適正な人員体制構築、計画的な育成強化、離職防止といった取り組みを進展させているところだ。

 

■Q&Aセッション

Q1 社内浸透施策については、実行はHR戦略部のメンバーだけか、それとも外部や他部門を巻き込んで実施したのか?

A1(MHI松田氏) 第5回調査後の取り組みはコーン・フェリーに支援してもらいながら基本的には社内で実施した。その他施策全般について、HR戦略部の担当は数名で、各事業領域のHRBP、企画担当者といったメンバーを巻き込んで実行した。

 

Q2 部門のトップや子会社のトップにエンゲージメントの重要性を理解してもらえないという経験はあったか?

A2(MHI松田氏) 個人的には、全く理解してもらえないと感じることはなかったが、エンゲージメントという概念は言葉にしにくいものでもあるので、受け止め方は人それぞれかもしれない。

 

Q3 取り組みにおいて、現場の上位層やリーダー陣から強い反発があったりしたか?

A3(MHI齋藤氏) この取り組みはまずはセグメント長のトップダウンで始まった側面があるので、比較的スムーズに進んだと言える。ただ、上位層にも色々な意見を持つ人たちがいるものなので、そういった多様な考えの人たちをどう巻き込んでいくかは大きなポイントだった。取り組み全体がマネジメントのプラスになるような形で進めていくことは意識した。

 

Q4 パルスサーベイではなく、2年に一度の調査実施としている理由は?

A4(MHI松田氏) 本日は紹介していないが、部署ごとの希望制という形でパルスサーベイも実施している。グループ全体規模となると、結果をまとめて改善活動に取り組むこと、そして変化が表れるまでに一定程度の時間がかかるため、現状は2年に一度のペースで実施している。

 

Q5 職場環境面のハードの整備について、具体的には?

A5(MHI齋藤氏) 歴史のある工場だと老朽化が進んでいる箇所があったりするので、例えばトレイの改修や空調の設置・修理などを行い、少しでも働きやすい環境になるようにしている。工場ごとの差が出ないようにすることも意識している。

 

Q6 セグメント内の越境制度は、一時的に他部署に出向するというイメージか? それとも業務時間の一部を他部署の仕事ができるようにしているのか?

A6(MHI齋藤氏) これは一時的に他部署に異動するという形を取っていて、最大2年間異動できる制度の検討を進めているところである。

 

Q7 エンゲージメント調査の結果を、役員報酬や何かしらの評価と連動させているか?

A7(MHI松田氏) 直接のご回答になるか分からないが、ドメイン・セグメント長(事業部門のトップ)やCXOには、取締役会での報告事項の一つに、自部門の調査結果やそれを踏まえてどういったアクションを取ったかを報告することを義務付けている。こうすることである程度の強制力を働かすことができると考えている。

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