グローバルな組織コンサルティングファームのコーン・フェリー(NYSE:KFY|コーン・フェリー・ジャパン 東京都千代田区 代表:滝波純一)と株式会社グロービス(東京都千代田区 代表:堀義人)は、日本の大手上場企業を対象に経営幹部のサクセッションに関する実態調査を実施しました。その結果、企業を取り巻く経営環境が大きく変化し、特に資本市場からの期待と社会的要請に応え続けるために経営幹部に求められる責任・要件も大きくシフトしていることが判明しました。
今日、多くの日系企業においてコーポレートガバナンス・コードに対応したCEOサクセッションへの取り組みが進んでいる。一方、2022年にコーン・フェリーが実施した「役員の指名・報酬に関する実態調査」によると、執行を司る経営幹部ポジションのサクセッションは十分に整備されているとはいえず、経営トップチームの競争力の確保、ならびに経営幹部育成の実行性を高めることが大手日系企業の共通課題となっている。
本調査は、日系企業における経営幹部サクセッションの現状を整理した上で、将来に向けた進化の型を探求することを目的として実施された。Web形式で実施した「日系企業の経営幹部サクセッションに関する実態調査」と先鋭的な施策を展開する企業への追加インタビュー・討議を通して、日本企業における経営幹部サクセッションの実態把握と今後の方向性に関する示唆を抽出した。別途実施した「大手欧米企業の執行体制・経営幹部の経歴調査」の結果も参照することで、海外における実態との差異にも着目した。
結果要旨:
企業を取り巻く経営環境が大きく変化し、特に資本市場からの期待と社会的要請に応え続けるために経営幹部に求められる責任・要件も大きくシフトした。高い専門性と経営視点に根差して投資家・社会と直接つながり信頼関係を構築できる経営幹部の確保が企業価値に従来以上のインパクトを与える時代に突入している。経営幹部サクセッションにおいても従来のアプローチが通用しなくなりつつある過渡期であり、更なる進化が期待される
- 回答企業の六割は指名(諮問)委員会もしくは経営会議の公式アジェンダとして採用し、ガバナンス/経営上の優先課題として経営幹部サクセッションに取り組んでいる。ただし、現任者に後継者候補をあげさせることによるリスト作成にとどまる企業も多く存在し、後継者の確保に課題感を感じている。92%の企業が今後取り組みを強化すると回答しており、経営幹部サクセッションのさらなる高度化が期待される
- サクセッションの前提となる経営チーム体制と機能の設計に関する課題感が多く聞かれた。深い議論とスピード感を伴う意思決定がしやすいように経営トップチームのポジション数を絞る動きが見られるが、特に資本市場からの事業ポートフォリオ改革に対する要請に応えることを優先しCXO体制に移行する企業も増えることが予想される
- 約半数の回答企業が経営幹部サクセッションに共通の人材要件を適用するが、ポジション毎の要件を用意する企業も増えている。ただし、役割・職務にとどまることが多く、求められる能力・経験・資質まで定義している企業は限定的
- 特に、これまでは事業責任者ポジションのサクセッションを優先してきた企業が多く、機能系CXO/機能トップの後継者育成・採用に活用できるポジション要件の整備は進んでいない。「高い専門性」 x 「ビジネス感覚・経営感覚」「グローバルの視野」「変革推進力」が全てのCXO/機能トップポジションに共通する必須要件。加えて、学びの俊敏性(ラーニングアジリティ)は時代が経営幹部に求める資質と認識されている
- 後継候補者の育成手法として最も活用されているのは修羅場経験の付与で、社外のリーダーシップ研修への派遣が続く。今回の調査では社外の専門家によるコーチングと外部専門家によるアセスメントを活用する企業はそれぞれ四割弱にとどまったが、採用する企業からは候補者の内省・成長メカニズムの埋め込みと外部水準を意識した育成の両面における効果性が語られた
- 機能系CXO/機能トップの育成方針として、半数以上の企業が損益責任を伴う事業経営まで積ませたいと回答した。大手欧米企業20社においてP&L責任を伴う事業責任経験を持つ機能系CXOは14%にとどまるという現実とは大きな乖離があるため、今後の育成アプローチを慎重に検討したい。資本市場からの期待と社会的要請がさらに高まり投資家・株主に直接対応する機会が増えることを想定すると、市場水準を超えた専門性と経営感覚を持つ候補者確保の重要性は増していく
- 今回経営幹部ポジションへの外部採用を検討しないと回答したのは13%にとどまり、生え抜き以外の経営幹部を持つことへの抵抗感は薄れている。しかし、60%は社内に次期後継者が見当たらない場合のみの活用と回答しており経営チームに異能を引き入れる能動的な姿勢が一般化しているとは言い難い。経営人材を社外から取り込み議論の質と意思決定の精度を高めた企業においては、アシミレーション(相互理解の深化)や外部専門家によるワークショップなど多様性を強みに変換するための追加の努力をしていることが確認された
調査概要:
Web形式で実施した「日系企業の経営幹部サクセッションに関する実態調査」と先鋭的な施策を展開する企業への追加インタビュー・討議を通して、日本企業における経営幹部サクセッションの実態把握と今後の方向性に関する示唆を抽出した。