新常態の人材育成~戦略シナリオで考える 第2回:将来の原動力を特定し、シナリオを作成する

前回は、不確実な状況においてはバックキャスト(未来逆算思考)、つまり中長期の視点で将来考えられる姿を捉えた上で、そこから逆算して考える方法が有効であることをお話ししました。今回は、戦略シナリオの考え方をお伝えし、具体的にバックキャストを通じて将来を見据える方法を紹介していきます。

 

バックキャストを行うためには、将来おこる可能性がある複数のシナリオを想定します。不確実性の高い状況において、将来の見通しを単一のシナリオで考えることは困難であり、また危険でもあります。複数のシナリオを想定し、どのようなシナリオに転んでも対応できるような準備を行っておくことが有効になります。さらに重要なことは、想定したシナリオを組織全体で共有して備えを行うことです。これができれば、全体が変化を俊敏にとらえて迅速に行動することが可能となります。

では、新常態の人材育成という課題を、戦略シナリオの手法を用いて考えていきましょう。戦略シナリオを考える際には、「原動力の特定」「シナリオの作成」「戦略の策定」の3つのステップがあります。これらを順に紹介していきます。

 

1つ目のステップは、原動力(Driver)の特定です。原動力とは事業を現在から未来へと動かす力です。原動力を探るために、まず中長期的な将来の姿を捉えることから始めます。将来に影響を及ぼすと考えられる重要な要因を捉え、その要因がどのように転ぶかによって分かれてくる複数のシナリオを策定することで、幅広い可能性をカバーすることができます。

具体的には、人材育成、あるいはより広く捉えて人事・組織に重大な影響を与える可能性があるマクロの環境要因(政治、経済、社会、技術等)を洗い出し、関連する情報を収集します。マクロの環境要因を洗い出すために、政治(Politics) 、経済(Economics)、社会(Society)、技術(Technology)の英語の頭文字を取ったPEST分析というフレームワークを活用します。例えば、Pにはジョブ型などの労働法制など、Eには日本や海外各国の経済成長など、Sには従業員の価値観など、Tには情報技術などが挙げられるでしょう。ここで重要なことは、初期の段階ではテーマに関係のありそうな要因をできるだけ幅広く上げて俎上に載せることです。不確実な将来を捉えていくためには、様々な可能性を探ることが大切になります。

そのうえで、環境要因の絞り込みを行います。絞り込みにあたっては、2つの観点を考慮します。一つは影響度です。様々な環境要因の中でも、特に事業に潜在的に与えるインパクトが大きいものを優先します。もう一つは不確実性です。起こるか起こらないかがよくわからない事象は予測が難しいため、複数のシナリオを想定して備える必要が出てきます。将来の人材育成について考える際に、より影響度の高い要因で、かつどのように転ぶのか不確実性が高い要因を優先して選択します。こうして選ばれた環境要因を原動力として特定します。この後想定するシナリオをできるだけシンプルでわかりやすいものにするために、原動力は少数に絞り込むとよいです。

 

2つ目のステップはシナリオの作成です。選択した原動力をもとに、漏れのない複数のシナリオを考えていきます。原動力がどのように転ぶのかをもとに複数のシナリオを策定し、各シナリオについて将来起こりえる姿を一連のストーリーにしていきます。例えば原動力を2つ選び、それぞれの原動力に2つずつの可能性があるのであれば、2×2=4通りのシナリオとストーリーが作成できます。このようにして複数のシナリオを考えることで、不確実な将来を幅広く想定することができます。なお、複数の原動力を採用する場合は、相互に関連が薄いものを選ぶ方が、より幅広い可能性をカバーすることができます。

シナリオにはわかりやすい名前を付け、各シナリオの状況をわかりやすく記述することが肝要となります。これは、社内や組織内での関係者を巻き込み、行動に繋げるためです。シナリオとストーリーを周囲に的確に説明して理解してもらうために、シナリオのタイトルはわかりやすく象徴的なもの、ストーリーは生き生きとしたものにしましょう。将来がどんな状況になるのかが誰にでも理解できるように、できるだけ具体的に作りこむとよいでしょう。

 

今回は、バックキャストを通じて将来を見据える戦略シナリオを紹介し、その3つのステップのうち、原動力の特定と、シナリオの作成についてお話ししました。次回は、戦略シナリオの3つ目のステップである戦略の策定についてお話しし、人材育成戦略を通じて将来を見据えた変革をどのように実現するかについて考えていきます。

関連記事