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コーン・フェリー ディジタル部門 カントリーリーダー 岡田 靖代コーン・フェリー ディジタル部門 シニア・ビジネスディベロップメント・ディレクター佐々木 浩
■社員意識調査の実施状況
セミナーの冒頭で、参加者を対象に2つの投票がなされた。1つ目は「社内で社員意識調査を実施しているか?」。結果は91%もの企業が実施していると回答。テーマに関心の高い企業の参加が多いためか非常に高い結果となった。2つ目は最初の質問で「はい」と答えた参加者を対象に「調査結果をふまえて、報酬に関連する施策に取り組んでいますか?」。これについては「報酬に関する施策を実施している」が約4割、「課題は見えるがまだ着手していない」と「課題が見えない」が約3割ずつとなった。
社員意識調査やエンゲージメント調査を実施する企業は増えているものの、調査後に結果を踏まえて改善を目指した施策をとることが大変重要である、と岡田氏は言う。組織の方向性は明確か、リーダーは信頼できるか、仕事はやりやすいかなど。DE&I、デジタル化への対応など、時代や環境が変化する中で新しく加わるドライバーもある。
■なぜ報酬は後回しにされがちなのか
エンゲージメントに影響する多様なドライバーがある中でなぜ報酬は後回しにされるのか、岡田氏は図表を見せながら説明した。

左の棒グラフは、エンゲージメントに寄与したドライバーについて、どのくらいの日本国内社員が肯定的に回答したかを示している。報酬は3番目に肯定的回答率が低い。ただ、協力体制や組織体制など、各職場でもっと優先するべき課題があることが、そのひとつの要因だ。また、左のグラフ内「✓」マークがついているのは、世界の好業績企業と比べた時に日本が大きく劣後しているドライバーで、顧客志向、リーダーシップ、組織の方向性、リソースなどがあがっている。このような優先度が高い領域に企業が取り組んでいる結果でもあるが、右の表にある「日本平均が直近で改善している項目」を見ると、組織の方向性、顧客志向などがある。報酬に関する肯定回答率は低いものの、その見直しや改善には制度変更や長期的な原資も必要ということで、施策としての優先順位が低くなりがちであることがデータから分かる。
■「内発的」および「外発的」動機と報酬が相関する組織の割合
この分析は、コーン・フェリーが2020年から2022年の間に実施した日本企業対象のエンゲージメント調査データをもとに行った。
ここで、「内発的」動機とは、「私は求められている以上のことをする意欲がある」というエンゲージメント設問のこと。「外発的」動機とは、「会社は求められる以上のことをする意欲を与えてくれる」というエンゲージメント設問のこと。これらを、金銭的報酬と非金銭的報酬のそれぞれ3設問ずつとの相関を検証した。

結果を見ると「内発的」動機と報酬関連が相関しているとわかる。グラフを見ると、左から濃い緑が本社組織、黄緑が国内グループ会社、緑が海外グループ会社となり、金銭的報酬に関しては、国内企業は相関している企業数は多くないが、海外グループの場合は半数を超える組織で相関がみられた。一方、非金銭報酬では、認知、役割理解に関して国内の企業の半数近くに相関性が見られた。全体的に海外のグループ会社においては、金銭、非金銭関わらず、5割以上の組織が内発的動機という設問に対し、プラスの相関があるという結果になった。

それに対し、「外発的」動機と報酬関連が相関する組織の割合は「内発的」と比べると相関する組織が多く、特に内部公平性、外部競争力に関しては、国内グループ会社も半数を超える組織で相関が見られた。国内外、本社も5割を超えたのは、業績連動、認知、対話の3つで、これは国内、本社グループ関係なく、認知に関する報酬の設問に対して関係性が見られた結果となった。
■年代別分析結果
次に国内の組織のみで実施した年代別の分析結果について解説した。年齢という切り口で均等にデータが取れるため、国内の対象会社それぞれの年齢別に相関係数を算出した。

半数以上の会社で相関が0.4以上になったのは、「内部公平性」「業績連動」「認知」「対話」の4つ。年齢によって多少違いはあるが、半数以上で相関が見られた。特に「業績連動」「認知」「対話」は、どの年代でも相関が見られる会社が多く、年代と設問によっては非常に高い割合で関係性が見られた。
ここで全体の気付きとして、グループ会社における金銭的報酬の影響は無視できない状況にあるということ。本社/グループに関わらず、成果を認知するのは外発的動機付け(会社がそういった場を用意している)ということが重要だと岡田氏はまとめた。
■金銭報酬「本社」「グループ会社」報酬マネジメントの着目点
ここからは佐々木氏が、本社、海外グループ会社の報酬マネジメントの着目点について紹介した。米国、ドイツ、中国、タイなど諸外国の報酬市場について日本国内との違いを過去と最新のデータを使って3つの比較をした。

1つは、対象国における現地企業の現時点の報酬水準。為替レートは変動するため過去3年の平均値を用いた。グラフ横軸は等級(ジョブサイズ)と呼ばれる職務の大きさで、一般社員クラスのグレード14から事業部長クラスのグレード22までを取り上げた。縦軸は年収(日本円)となる。グラフから分かるのは、非管理職層はそこまでの違いは見られないが、課長、部長、事業部長と上がるにつれ、どんどん海外に抜かれ、部長クラス以降になると日本企業はほぼ最低水準となることだ。新興国も経済発展によって大きく成長しており、報酬水準も高くなっている。

2つ目として、当該国の外資系企業の水準に目を向けた。海外では日本企業がその国における外資系企業という立場になるためだ。特に中国とタイでは国内企業が成長し報酬水準が高くなっており、外資系企業より高めに設定されている。多くの企業では、海外の経営幹部の報酬の決定に関しては本社が承認するプロセスがあり、その際、日本本社の幹部との報酬比較をしてしまい、現地幹部の報酬の方が高いとなると、本社に対して説明しにくいという課題がある。しかし、現地の適切な報酬水準に関して日本視点で見てしまうと誤った判断をしてしまう可能性があるのだ。
さらに着目したい点は、グラフの赤い点線部分。これは部長クラスと事業部長クラスの日本企業における日本報酬水準の線だが、ほとんど差がないことが分かる。ジョブサイズ、役割が大きくなっているにも関わらず、このギャップが非常に小さい。要因の一つに、国内の役員報酬がグローバルと比較しても低いので、役員報酬が上がらないと、事業部長クラス上がらないということ。国内役員報酬に関しては、国内企業同士で比較する傾向が強く、グローバルとの開きが大きくなり、デフレ経済による低い昇給率が長く続いてより低くなっている状態だと言える。

3つ目は、海外市場の報酬水準がどの程度上昇したか。グラフは2008年から2022年の上昇率を示したもので、日本国内における部長クラスの上昇率はかなり低く、過去十数年間の間にほとんど伸びていないことがわかる。一方、海外でも特に新興国は伸びており、日本が追い抜かれている状態であることが明らかだ。昨今の円安状況を考慮に入れると、この差はさらに広がっている。現地で必要な人材を確保するためには、市場の正確な把握と適切な対応が必要不可欠になっているのだ。
■本社と国内グループ会社における報酬課題への取り組み
続いて、国内グループ会社における報酬課題を紹介した。ある機能組織(生産、物流、開発、管理部門など)を役割分担し、定型業務をグループ会社の役割することが多い。しかし時間が経ち、グループ会社の役割が変化する中で必要な人材要件も変化し、報酬水準が変わってくるケースが出てくる。そうすると、グループ内の公平性と、外部から必要な人材を惹きつけるための市場競争力が課題になる。

本社からの出向者、グループ会社の正社員、グループ会社の契約社員の仕事を「職務価値」に置き換えた時に課題が明確になる。同じ仕事をしているにもかかわらず、雇用背景や雇用された人事制度によって給与に差が生じているのだ。これにより社員に不公平感を招いてしまい、士気が低下してしまいかねない。金銭的報酬が衛生要因として機能することは最低限必要であり、早急な対応が求められている。
■金銭的(有形の)報酬の盲点と非金銭報酬の重要性
実は金銭的報酬については応用心理学の領域でさまざまな研究があり、いくつかの盲点が明らかになっている。主なものは3つだ。
1 金銭や物品などの有形の報酬は、持続的かつ長期的なモチベーションやパフォーマンスを損なう可能性がある。
2 社員が自発的に好きでやっていることに対して、有形なもので報酬を与えてしまうと、かえってモチベーションやパフォーマンスが下がることがある。
3 複雑な問題に対処するような創造性を発揮して問題解決するタイプの仕事に関して、有形報酬で報いるのは本来得たい成果を追求するときに、かえってそれを妨げてしまう可能性がある。
このことから、仕事に見合っているか、他社と同等であるか、業績に連動しているかの基本的なことが押さえられているかが重要である。それが満たされていると金銭的な報酬でさらにモチベーションを引き出すのは限界があると岡田氏は指摘する。
そこで今、注目を集めているのが非金銭的報酬である。そこには色々なものが含まれるが、特に認知/称賛についてはリーダーや管理職が身につけることが奨励されている。リーダー層が職場でどのように行動するかによって組織の風土が作り出され、その風土の良し悪しがその組織のパフォーマンスを左右するからだ。金銭面は人事だけではどうすることもできない部分が多いが、リーダーが認知/称賛の練習をして成功体験を積み重ねる支援をすることはすぐにでもできる。「報酬」に関わる人事各部署が連携して、自社独自のエンゲージメントと報酬の“いい関係”を築いていただきたい、と岡田氏はセミナーを締めくくった。
■Q&Aセッション
【分析について】
Q1:報酬の内発的、外発的動機についての相関性は分かったが、他の因子についてなお報酬優先順位の高い取り組み次項といえるのか。
今回、報酬以外のドライバーと自発的な取り組み意欲との相関もあわせて分析を行った。一般的にエンゲージメントとの関係性が高いといわれる「成長の機会」の他、「リーダーシップ」「組織体制」などが、相関する企業が多いドライバーとして抽出された。
Q2:なぜグループ会社のほうが、金銭的報酬の影響が多いと分析されているのか?
もともとグループ会社の方が、影響が多いだろうと見ていたわけではないが、実際に分析してみると、そういう傾向が見えてきた。本社にマネジメントの事務局が多いので、本社とのやり取りが多いが、本社からはあまりグループの実情が見えづらい状況にあると金銭報酬に関して目が届いていない側面があると言える。
Q3:データ検証に関して、そもそもエンゲージメントと報酬の相関関係が高い企業と低い企業の差はどういうところにあるのか?
相関する組織が多い企業とそうでない企業の違いについて分析を試みたが、有効な示唆が提供できるまでの明確な区分は確認できなかった。それよりも、「国内 vs 海外」や「本社 vs グループ企業」で顕著な差が見られた為、今回はその点を取り上げることとした。
Q4:内発動機について、海外と国内で対比をすると内発的動機と金銭/非金銭的の報酬の相関が少ないということだが、そうすると国内において内発的動機と相関性が高い項目が、金銭/非金銭の報酬以外にあるということか?
海外に比べると国内は、金銭的なところに関しては相関が少ないが、非金銭のところは、5割近くある組織が多い。金銭のところは、国内のグループ会社は、内発的なところには多かった。
【エンゲージメント調査に関連して】
Q5:日本の肯定的回答率の平均はほとんどが大手企業と考えてよいか?
コーン・フェリーの日本ベンチマークは、全体で約85社100万人のデータとなっている。平均すると1社の平均は1万人を超える規模で、多くが大手企業と言える。ただし、大手企業の場合、傘下のグループ会社が数十社単位で1社のサンプルに含まれているケースがある。
Q6:そもそも社員意識調査に報酬に関する設問を入れないこと自体が間違いということか?
社員意識調査は、現在の状態を把握して、改善策を実施するために行われるため、各社ごとに重点領域が存在すると考える。コーン・フェリーの研究では「報酬」はエンゲージメントに影響するドライバーとして位置づけているので、報酬に関する設問を入れることを推奨している。
【金銭的報酬に関連して】
Q7:なぜグループ会社の方が金銭的報酬の影響が多いのか。
国内外グループの事例(スライドP21~22)で示したように、グループ会社では内部公平性・外部競争力ともに課題があるケースが多くある。グループ会社がおかれたこういった状況に、金銭的報酬への感度がより高くなっている一因があると考える。
Q8:日本のサラリーマンは世界最低レベルの上昇意欲しかないという報道を見聞きする。実際に弊社でも日本人の上昇意欲は、タイやインド人に比べると低いように感じる。これは日本の報酬が、職位があがっても報酬水準の上がり方が他国に比べると低いということと整合しているのか? また、それならマーケット水準に合わせて報酬水準を設定するのは、日本人の意欲を上げるという目的からすると適切か?
日本のサラリーマンの上昇意欲についてコメントするのは難しいが、コーン・フェリーのエンゲージメント調査において、エンゲージメントの日本平均が諸外国と比べて最も低いことは事実。控えめに回答するという国民性を考慮に入れる必要はあるにせよ、エンゲージメントの3つの要素のうち、諸外国から大きく劣後するのは「外発的」動機付けによる取り組み意欲であることもわかっている。その意味で、報酬を含めて会社が社員の動機付けのためにやるべきことは多くあると考える。職位があがっても報酬水準がそれに応じて諸外国のように上がらない現実は、グローバルで通用する人材を日本企業につなぎとめるための必要条件を満たしていないかもしれないことを示唆している。
Q9:金銭報酬のうちストックオプションなど現金以外の報酬が、エンゲージメントに与える影響は? それを配慮して海外の報酬体系を変えている組織も多いのではないか。
ストックオプションなどの長期インセンティブ報酬は、主にインセンティブプラン対象者のつなぎ止めのために活用されている(業績目標値を設定して、インセンティブプラン行使の条件としている場合には、パフォーマンス向上が目的となり、日本では一般的ではない)。また、長期インセンティブの対象者は通常上位職に限られますので、その方々のエンゲージメントへの影響については検証できていない。エンゲージメントの3つの要素のうち、長期的コミットメントには影響すると考えられるが、信頼、誇り、自信、自発的な取り組み意欲などに直接的には影響しないのではないかと推察する。
【非金銭的報酬に関連して】
Q10:リーダーシップスタイルとは何か?
リーダーシップスタイルとは、リーダーがどのように部下に方向性を示し、働きかけ、評価・育成しているかに関するスタイルのこと。コーン・フェリーでは、「指示命令型」、「ビジョン型」、「関係重視型」、「民主型」、「率先型」、「育成型」の6つのリーダーシップスタイルを定義している。これらを上司が時と場合によって使い分けることで、良い組織風土を醸成することができるようになる。
Q11:認知・称賛について、具体的な事例をお教えいただきたい。
認知と称賛において大切な行動には以下のようなものがある。
・行動や結果について認知する(成果だけでなく、その過程や行動・成長について認め、具体的に簡潔に伝える)
・感謝の気持ちを伝える(個人的な感謝の気持ちを表す言葉を使う)
・周囲の影響も言及する(他の人に与えたポジティブな結果や恩恵についても共有する)
認知と称賛は、必ずしも上司から部下へだけでなく、職場の仲間同士にもあてはまり、また会社の表彰制度なども含まれる。
Q12:認知や称賛を「非金銭的報酬」と区分することは諸外国ではメジャーなのか? 英語圏などの海外従業員のイメージする「報酬(reward)」は、金銭的報酬で、非金銭的報酬の概念を伝えるのが難しいと感じている。
諸外国では金銭的・非金銭的報酬をあわせたトータルリワードの考え方が一般的になっている。金銭的報酬と非金銭的報酬を分ける場合、一般的にTangible(有形)とIntangible(無形)と表現する。または、Monetary(金銭的) と Non-Monetary(非金銭的)と表現することもある。
Q13:非金銭的報酬とエンゲージメントに相関があることは理解できたが、非金銭的報酬を向上させることによってエンゲージメントも向上できる、という因果関係があることまで立証されているのか?
弊社エンゲージメント調査のご参加企業で重回帰分析を行うと、非金銭的報酬の「認知」が重要因子に抽出されるケースが多くある。このことから、個社の結果では「認知」とエンゲージメントの間に因果関係があることが立証されている。