【講演録】3回シリーズ:営業起点の組織変革 第2回:営業から始める顧客起点組織へのプロセス改革

真の声に耳を傾け、顧客すら気づいていないニーズを感じ取るためには、顧客に最も近い立場にある営業の役割を見直し、顧客起点の組織へと再設計していく必要がある。そのための具体的な手法から定着方法までを紐解く3回シリーズセミナー。第2回では、第1回でお伝えした顧客起点組織の成功法則、1. マインドセットを改革する、2. 人ではなくプロセスを責める、3. 営業が企業の成長をドライブする、の3つのより具体的なアプローチをご紹介する。

 

コーン・フェリー デジタル部門 シニア ビジネス ディベロップメント ディレクター 野見山 健一郎

 

■マインドセットを改革するには

最初に野見山氏は3つの質問を投げかけた。

  1. 研修を受講したらマインドセットと行動は変わるのか?
  2. リーダーが説明したらマインドセットと行動は変わるのか?
  3. スローガンやコアバリューを毎日目にしたら、口に出したらマインドセットと行動は変わるのか?

マインドセットを変えることと、日々の業務プロセスとは非常に密接な関連があるという。研修で学んでも日々の忙しい業務の中ですぐに忘れられがちであろう。そこでポイントになるのが業務プロセスだという。日々の業務プロセスが顧客志向、顧客起点になっていることで自然に思考が変わり、思考が変わると行動が変わり、行動が変わることでパフォーマンスが変わる。だからこそ、業務プロセスに焦点をあてることが重要なポイントとなる。

 

■マインドセットと行動変容の強化・定着に必要な要素とラーニング

次に野見山氏はこのマインドセットと行動の変革を強化し定着させるのに必要なラーニングモデルについて説明した。10%は研修プログラムなどの座学から、20%は現場でのコーチングなどから、70%は現場での実践から学ぶという、いわゆる「70:20:10の法則」である。

「この3つが兼ね備わっている状態により、マインドセットの改革と行動変容が強力にドライブされます。特に70%を占める実践部分が、まさに業務プロセスに関わる重要なポイントになります。まずマインドセットを変えるカスタマーオブセッション顧客志向というのを徹底的に実践していくという上では、やはり個人へのスキルやスローガンや言葉を日々唱えるといったこと以外に、業務プロセスを見直していくということが非常に重要なポイントになります」

 

■プロセスの徹底で得られるメリット

コーン・フェリーの調査によると、好業績企業は他の企業と比べて3倍の割合でダイナミックな営業プロセスを構築し、徹底的に組織で実践している。このようなプロセスを徹底している企業では、そうでない企業に比べ個人の売上目標達成割合は21%高く、案件勝率も26%高い。

ここで野見山氏は、セミナー参加者を対象に現在の自社の営業プロセスの状況について投票を行なった。結果は「形式上のプロセス」と「正式なプロセス」と合わせて70%近くに達し、「ダイナミックプロセス」をしっかり運用していている企業は20%程度に過ぎなかった。

続いて、現在の案件勝率に関する投票も行った。結果は「改善している」が16%、「以前と変わらない」が39%、「低下している」が29%だった。

これらの状況を踏まえ、現状を改善するための打ち手の話に移った。

 

■顧客を理解する

昨今、顧客側の購買行動が非常に変化している、と野見山氏は指摘する。その原因は将来性が不明瞭なことであり、意思決定を躊躇しているようなケースが多いことだ。実際にある調査では、売り手側のパイプラインの4~6割は、顧客が最終的に意思決定しないことにより失注している。

また、不明瞭な環境下において、意思決定により多くの人を交える傾向が強くなっていることもある。売り手側から見ると、以前より多くのステークホルダーの期待値、思惑、価値観が複雑に絡み合うような意思決定プロセスになってきている。コーン・フェリーの調査では、B to B案件の場合、平均6.4人以上が意思決定に関わってくるというデータがある。

もう一つ言えるのは、顧客は営業に提案依頼をする前に、自分たちでソリューションや利点、価格帯やスペックについて事前調査しているということだ。顧客自らが事業戦略に沿って打ち手を考えており、意思決定プロセスの初期段階で売り手にコンタクトする顧客は年々減少している傾向がある。逆に言うと、この意思決定プロセスの早い段階からきちっとエンゲージできている営業組織の勝率が高いことが分かっている。顧客がどういう状況にあるかを意識しながらプロセスを構築していく必要がある、と野見山氏は指摘する。

 

■今、営業は何を求められているのか

現在の営業に求められるポイントの一つとして、「Educate Me」という考え方がある。せっかく時間を取るのであれば、視野を広げて、新たな気付きを与え、今まで見たこともないような新しい世界観を見せてほしい。こうしたパースペクティブを提供する営業であれば顧客は興味をもってくれるということだ。これを行うには、顧客の経営的目線、ビジネスアキュメントというビジネス感覚、顧客戦略立案、マーケティング、人材マネジメント、財務、会計、などあらゆる側面からお客様の状況を把握した上で見落としている課題点を把握し、さらにディスカッション中にそれを素朴な質問で顧客に気づかせることができる必要がある。

野見山氏は、今は一人の担当営業がお客様の期待値を超えていくというのはとても難しい状況になっていると指摘する。そうなると、自社の組織内で縦の結束ではなく、横の展開をする必要がある。組織横断的に協業をしながら、顧客にとって何が付加価値なのか、示唆になるのかを考えていくことが必要になる。営業がきちっとリードしながら進めていくと、こういう観点を求められている。その観点をベースにしたプロセスを構築していかないと、なかなか顧客志向というのが根付くプロセス、ビジネスパフォーマンスが上がるプロセスというのが構築できない。このポイントをしっかり押さえたプロセスの構築が重要だと強調する。

 

■顧客起点のプロセスと顧客の購買意思決定プロセス

では、大きな意味でのプロセスとはどういうことか。野見山氏は顧客起点のプロセスは、顧客の購買決定プロセスと同期させて設計する必要があると説明する。そして、プロセスの定着と共にパフォーマンスを改善させるにはメソッドとスキルのコンビネーションが鍵だと強調する。

「このメソッドは必要な行動を定義づけ、どの行動をとり、お客様がどういうリアクションをした場合に、次のプロセスに進めるのか。そういう点まで定義していくことが重要です。メソッドとスキルのコンビネーションは非常に重要なので、実行するスキルも大事だが、その前に何をすべきかを知ることはもっと重要です。組織的に再現性を高めて行動の一貫性を高めていく。さらにコーチングの一貫性も高めていきます」

このメソッドとプロセスの組み合わせを作るのを支援した、プロフェッショナルサービス企業をケーススタディで取りあげた。組織共通のプロセスもメソッドもなく、属人的でマーケットから遅れをとる懸念があった企業が、顧客起点メソッドとプロセスをしっかり作り、結果60%以上も案件勝率が増加した事例だ。

そして、一点気を付けなければいけないことがあると野見山氏は注意を促す。過去の成功が今後も成功となるのかという点である。昨今DXや様々なソリューションということで、売るもの事態が変わってきている環境で、過去そのプロダクトを売る際のハイパフォーマーだったやり方が今後もサクセスストーリーになるのかという点は、ケアしながらヒアリングをかけてまとめていくことが求められる。そのためには他社や国外のメソッドに少し目を向けてベンチマークすることも今後プロセスとメソッドを組み合わせていく上で参考になる。

 

■効果的なコーチングは強力なパフォーマンスを牽引する

さらに、コーチングも重要であると野見山氏は続ける。コーチング実践の現実というのは、コーチングのプロセスがない、コーチングのプロセスはあるが一貫性がない、または組織的にコーチング定義があってちゃんと運用されているというのがある。さらに進んでいるケースになると、そのコーチングをやっているところが、まず評価にはいってくるということ、効果性がきちっと測定される、こんなところまで仕組み化している企業は非常にパフォーマンスが高いとわかる。

面白いのは、コーチングを効果的に行うと、営業メンバーの一つ一つの案件に関わる関与率が上がることだ。そうなると信頼関係が構築され、自発的な退職もそれを行っていない企業より低い傾向もみられる点である。

また、コーチングにおいてのテクノロジーの部分では、好業績を示している企業ではCRMのダッシュボードのデータを多く活用している傾向がみえ、メソッドを組み込んだCRM、そして営業が使えると思えるCRMにすることで、中に入っているデータの信頼度も上がり、それをもってしっかりとコーチングするというステップ、この組み合わせをきちんと環境整備していく必要がある。

まずは、顧客起点と今顧客が何を求めているのかを理解した上で、そこを超えていくための行動は何をしなければいけないか、それを社内の行動メソッドとして確立して、そこの行動メソッドと連携させる形でプロセスとステップというところを構築していく。そこでスキルの強化につながる。営業強化というと、人のスキルトレーニングに目がいくケースが多い。しかしそのスキルを発揮するかしないかは個人の属人的なところは拭えない。まずは行動メソッドとプロセスの構築をし、実践するためのスキルを強化していくという入り方も一つのアプローチである。

最後に人(マインドセット、個人スキル、コーチング)、テクノロジー、そしてプロセスとメソッドを組み合わせた環境をしっかり作り、その中で中間層60%のマインドセットをハイパフォーマーレベルにシフトさせ、その人数が増やすことで、社内の共通言語のフレームワークで議論、コミュニケーションされる機会が増える。他の部門もマインドセットが変わっていくという相乗効果のある流れを作っていくと成功する企業の法則に近づいていくことになる。

 

■Q&Aセッション

Q:マネジャーのコーチングの効果測定をどのようにするか教えてほしい。

A:

ある企業で行っているのは、実際コーチングをメソッドに沿ってやっているコーチングセッションの回数や時間をトラッキングして、それとともにコーチングされている側の案件の勝率などのデータも掛け合わせ、効果測定するというもの。まずはきちんとコーチングを実地しているか、実地している時間がどうなのか、その中でコーチングセッションのメモの内容をデータ化していくというところ、それに対して実際の案件の勝率がどうなのか、こういったデータと数字を掛け合わせて効果を見てくことをお勧めする。

 

Q:パーパスと営業メソッドの相関について教えてほしい。

A:

昨今、企業様は様々なパーパスを掲げているが、基本的には社会貢献に関することや、顧客に価値を創造するとか、そういう内容がパーパスに掲げられるケースが多い。そういう意味では、その顧客にもし価値創造するというパーパスがあった場合に、その価値創造していくためにどういったお客様の状況を捉えるための行動を取らなきゃいけないか、またお客様に聞くだけではなく、お客様以外からどういった情報を得て、自ら分析していかなければいけないのか、こういった行動指標というものがメソッドとして確立されているというところが重要だと考える。

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