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Skip to main contentコーン・フェリー・ジャパン コンサルタント 綱島 邦夫
■顧客起点組織の成功法則アジェンダ
セミナーを開始するにあたり、綱島氏は営業にとって重要な3つのポイントを提示した。
1. 意識(マインドセット)を改革する2. 人ではなくプロセスを責める3. 営業が企業の成長をドライブする
■1. 意識(マインドセット)を改革する意識(マインドセット)を改革するとはどういうことか。これは3つの要素で構成される。

1つ目、カスタマー・ファーストを標榜する会社は多いが、本当に実践できている企業はそれほどないのではないか、と綱島氏は問いかける。実践する企業の一つとして挙げるのが、カスタマー・オブセッションという言葉を掲げているAmazon社だ。Obsessionには「とりつく」「徘徊する」などややおどろおどろしい意味がある。綱島氏は自身が証券会社で営業を担当していた当時、先輩に言われたことを引き合いに出した。その先輩は会社から課されたノルマよりも、お客様との関係作りを何よりも大切にしていた。「お客様は日々の株価変動の報告に興味があるのではない。そんなことはご自身でも見ている。お客様が本当に知りたい情報をお伝えするために自分は一生懸命仕事をしている」と。お客様に言われたことに反応するのではなく、お客様が本当に何を望んでいるかを考え先に動くこと。つまり、顧客起点の意識(マインドセット)を持つことが本当に重要だと語る。
2つ目が、販売と営業の違い。混同されることもあるこれらの言葉だが、まるで意味が違うと言う。販売は会社が作った商品を売ることで、英語にするとSales。これに対し、営業はCommerceで「事業を作る」「商売する」といったより広く深い意味がある。営業とは実に奥深い言葉で、意味をきちんと理解していないと、営業をしているはずがただの販売になってしまうことがあるという。カスタマー・ファーストは営業の文脈でしか成り立たないことを綱島氏は強調した。
3つ目の「縦の結束」ではなく「横の展開」とはどういうことか。営業組織は縦の結束があるものだが、上からの指示だけで目標達成しようとすると、営業ではなく販売になりがちなので、必然的にカスタマー・ファーストは実現しがたく、目標を達成することもできない。本当にお客様の心の中に入っていくような営業担当者であれば、問題が品質や納期など営業組織の外側にあることに気づくはずだ。だからこそ営業は縦組織ではなく、横に展開できる組織としてお客様のニーズをくみ取り、横の連携でソリューションを見つけることを模索すると。
これら営業のマインドセットは本当に重要で、社内で良い成績をあげる、お客様に価値を提供するだけではなく、営業の人たちのキャリアを安定させることに繋がる、と綱島氏は言う。
■2. 人ではなくプロセスを責める実はマインドセットの変革は前提であり、それだけで即結果に繋がるわけではない。次に必要なのがプロセスだ。それも、営業個々人のがんばりに頼らなくても結果が出るプロセスを構築することが大事になってくる。

綱島氏は以前インドのバンガロールにあるトヨタ自動車のディーラーを訪問した時のことを語った。そこで印象に残っているのは店長の部屋に貼ってあった標語「Don’t blame people, Blame process.(人ではなくプロセスを責めろ)」。品質経営の父と言われるエドワーズ・デミング博士の言葉だ。トヨタでは部長クラスが常に横の組織と話し合いをする場が設けられており、それも自部署だけでなく会社全体でプロセスを良いものにしていく取り組みがなされていたのを目にした。そのBBP(Basic Business Principle)がトヨタの競争力の源泉となっているという。
また某ITソリューション企業では、常識からすると営業は外に出てお客様に会うことに時間を使うと考えられがちだが、優秀な営業ほど社内での時間を多く割いているという。営業に行ってお客様から出た悩みや問題を解決するためには、横のネットワークが大切だからだ。それなしに外回りばかりしても、足が棒になるだけで非効率に過ぎない。
最近様々な書籍が出版されているキーエンス社では、創業者の言葉の一つに「営業は社内で時間を使いなさい」とある。それら書籍を読むといかに顧客起点のマインドセットと顧客起点のプロセスができている企業かが分かり、高業績をあげるのも納得だという。キーエンスはある意味当たり前のことをやっているだけなのだが、その当たり前のことができないで伸び悩む企業が多い。キーエンスではお客様のニーズをお客様が気付く前に問題提起をし、それにお客様が同意したらすぐに行動に移せる準備をしている。お客様を理解し、お客様にとって良い解決策を提案していくプロセスがつくられているということである。
プロセスを作るということに着眼して、それを実践している会社は本当に少ないと綱島氏はいう。ただ、本当に実践できている企業は大きな実績に繋がっているという。苦境から脱した「仕組みが9割」とうたう無印良品や、「利益がでる仕組みを作る」ことを経営理念とし業績を上げたアイリスオーヤマも好例として挙げた。
■3. 営業が企業の成長をドライブするこの20年間で著しく成長した企業はごくわずかだという。企業が成長するかどうか、その鍵は営業が握っていると綱島氏は強調する。お客様に一番近い立場にいる営業が、その実体験、成功や失敗の経験を活かし、企業の成長をドライブすることが大事。つまり、営業が声を挙げなければ、会社は動かないのだ。
その際、3つのポイントを挙げた。

「営業は企業の総合芸術」ということを私たちは肝に銘じるべきだと綱島氏はいう。マーケティングという言葉はアメリカで生まれた。アメリカには「営業」という言葉はなく、売ることを命じられ一生懸命になる販売員はたくさんいたが、需要を創造できる販売員は少なかった。そこでマーケティングというものができたといわれている。それに対し、日本には「営業」という素晴らしい言葉があった。顧客の問題を解決する営業は企業の主役だという。「今の商品ではお客様のニーズに応えられない」などと代弁する社内のスポークスマンであり、顧客には「わが社にはこんな素晴らしいソリューションがあります」と伝える社外アンバサダーになるべきだと。
これを実現する基本な事は、Growth Mindsetという成長志向の考え方だ。テストで99点を取ったからエリートだとか、50点を取ったからダメだというようなFixed Mindset(固定化された思考)ではなく、個人は伸びしろがあると喜び、組織も個人の伸びしろを大切にするということだ。このGrowth Mindsetの元をたどると、700年も前の『風姿花伝』の著者・世阿弥の能の理論書の中にある「初心忘るべからず」ではないかと綱島氏は指摘する。その意味は「その頃の情熱、志や思いを忘れるな」という間違った解釈をされていることが多いが、そうではなく大切なのは日々進歩することで、そのために過去の自分を覚えておいて目安とし、その時と比べた進歩度合いを測定してさらに成長していくことだという。つまり、ライバルは昨日の自分ということなのである。
■Q&Aセッション
Q: がんばらなくても結果が出る仕組みを作るために重要なことは?
綱島氏:信越化学という大手化学メーカーがあります。B to B企業なので、お客様と価格交渉するのが普通なのですが、信越化学には価格を設定する仕組みはありません。なぜなら時価で売っているからです。営業は価格を交渉するという時間を削減し、他のより重要な事に充てる、という仕組みなのです。また、ヒューストンの工場には倉庫がありません。できた商品は直接貨車の荷台にいれ、注文が入り次第、すぐにお客様に届けるからです。短納期となりお客様は喜び、その分営業担当者はお客様との関係作りに時間を使えるという仕組みが構築されているのです。仕組みをつくるというのは、新しいものを作ることだけではなく、無駄を省くということでもあるのです。
Q:社員にマインドセット変革の必要性に共感しもらい、根づかせていくためには具体的に何が必要か?
綱島氏:1 on 1の対話や、ワークショップの開催、日々のコミュニケーション、トップメッセージなどがよく言われますが、それらはあまり効果がないと思います。日本企業にすぐこのまま導入するのはスキルがないから難しいからです。大事なのは、社員の業績評価、ビジネスの成果、営業担当者なら達成率など、 去年一年間でどのくらい成長したかと、そこで結果や成長があった人にきちんと報いることが大切です。成長がない人はそのまま。昇進の基準は成長しているどうかで見ることが大事です。
Q:営業=セールス+マーケティングに近いと理解したが、うまく機能させるには?
綱島氏:
組織はどうしても縦割りになりやすいので、重要なのは見えないプロジェクト。組織図を作り変えたところで課題は変わりません。組織横断のプロジェクトワークを勇気づけ、支援することが大事になります。なかなか最初は手が上がらないかと思いますが、鍵は組織を横断した横方向のプロジェクトです。