【講演録】“ミドル育成の新基準”、科学的アセスメントを活用したデータ駆動型人材開発

コーン・フェリーでは2025年7月30日に「“ミドル育成の新基準”、科学的アセスメントを活用したデータ駆動型人材開発」と題するオンラインセミナーを開催しました。以下はその講演録です。動画は< https://vimeo.com/1106003512/1e400fea8b >でご覧いただけます。

 

コーン・フェリー・ジャパン

アソシエイト クライアント パートナー 岡部 雅仁

クライアント リレーションシップ マネジャー 吉田 幸広

 

■データに基づいて人材の意思決定を行うピープルアナリティクス

ミドル層の育成は、いつの時代も日本企業の組織・人事課題の核心の一つとなっている。今、データの活用やテクノロジーの進化により人材アセスメントの精度はますます向上しており、それを育成に戦略的に活用するピープルアナリティクスのニーズが生じている。本セミナーでは、科学的人材アセスメントによって個人と組織の開発領域をより高い精度で特定し、ミドル層のリーダーシップ開発を促進させる手法を紹介する。

ピープルアナリティクスに関する相談で特に多いのがリーダー層に関するものだ。それも経営リーダー層だけでなく、オペレーションの中心を担うミドル層も対象となっている。コーン・フェリーはこれまで様々なリーダーシップのモデルを提唱してきたが、普遍的なものはなく、時代によって、また各社のビジネスモデルや事業フェーズに応じて必要なリーダー像というのは変わってくる。大事なのは、まず自社にとって必要なリーダー像を定義すること。変化の激しい時代に理想のリーダー像は過去の延長線上にはないため、意思をもって設計していくことが求められる。そして、リーダーというのは自然発生するものではなく、定義したリーダー像に基づいて、意図をもって人材を選抜し、育成していくことになる。

コーン・フェリーで高業績企業の要因を調査・分析したところ、その違いはOrganizational Adaptabilityだと特定された(図表1)。つまり、生物と同じく、組織もいかに環境変化に機敏に対応できるかが業績向上の要因ということだ。その際、鍵となるのがリーダー層の変化への準備度合(レディネス)。変化は起こるものとして常日頃から準備できている状態、Change Ready Leaderであることが求められているのだ。これは、経営リーダー層はもちろんのこと、お客様と日々接しており現場の中枢にいるミドルリーダー層についても重要となる。

▼図表1:高業績企業の要因Organizational Adaptability

このChange Ready Leaderをただスローガンとして掲げるのではなく、人材要件に織り込み、日々の業務に落とし込んでいくことが必要だ。そこでコーン・フェリーでは、このChange Ready Leaderの要件を「サクセス・プロファイル」の主要要素として定義し、成果責任から具体的な人材要件までを一つのジョブとして整合性が取れた形で体系化した。

 

■職務で成功するための科学的な職務・人材要件「サクセス・プロファイル」

「サクセス・プロファイル」について簡単に説明すると、これはいわゆるジョブ・ディスクリプションとは違い、特定職務で成功している人材要件データのこと。その職責を遂行するのに求められるコンピテンシーや行動特性以外にも、職務適合するために重要な内的な資質なども含めてジョブ・カタログとしてモデル化しており、現在約1万種類のジョブを整備している。

その要素は、Accountability、Capability、Identityの3つから構成される。Accountabilityはその仕事に求められる成果責任、Capabilityはその役割を果たすために必要なコンピテンシー、経験、知識といったハード面もしくは外形的情報、そしてIdentityは当該ポジションに相応しい価値観や性格特性を持っているかといったソフト面もしくは内在的情報となる(図表2)。

AccountabilityやCapabilityといったハード面は職務経歴書や認知アセスメントで測定できるが、ソフト面の適合性は見落とされがちだ。しかし、ソフト面においてポジションとの適合性が高いと、カルチャーフィットが高くエンゲージメントや定着率が高まり、長い目で見てパフォーマンスが生まれやすくなる。学術的には、仕事との適合性をパーソン・ジョブ・フィット、組織風土との適合性をパーソン・オーガニゼーション・フィットと呼ぶが、条件的には合致しているのにパフォーマンスが低い人がいた場合、これらのフィットが弱いということが考えられる。

▼図表2:科学的な職務・人材要件情報、サクセス・プロファイル

■データドリブンな人材開発とは

ここからは、サクセス・プロファイルを用いてデータと基にした人材開発を行う手法を紹介したい。コーン・フェリーでは人材開発のプロセスを、Define(定義)、Measure(可視化)、Develop(開発)、Sustain(仕組みの準備)と4つのフェーズに体系化した(図表3)。

最初のDefineでは、今後の事業戦略を推進する上で求められる役割期待と人材要件の明確化を行う。次のMeasureではその人材要件に対してアセスメントを行い、充足度やギャップというのを可視化する。3つ目のDevelopでは、ギャップを解消するための育成プログラムや最適なアサインを検討する。最後のSustainでは、成果を促進するための仕組みを確立させる。グローバルで展開しているためポジション起点の発想ではあるが、職能主義の日本企業でもうまく当てはめられるようにコーン・フェリー側で調整が可能だ。

▼図表3:データドリブン人材開発のアプローチ例

アセスメントにおいてサクセス・プロファイルを活用するメリットを端的に言えば、その職務で高い成果を上げている人材とアセスメント対象者の比較が可能なことにある。具体例として図表4右側の図を見ると、黄色いバーが対象者のアセスメント結果、グレーが当該職務において高いパフォーマンスを発揮している人材の値となる。この図ではコンピテンシーを比較しているが、内的資質も比較できるため、対象者の充足度や開発ニーズを科学的に精度高く判断することで、感覚値での議論を脱し、より納得感のある意思決定ができるようになる。

▼図表4:サクセス・プロファイルを活用した人材アセスメント

■ピープルアナリティクスの活用事例

ここからはピープルアナリティクスの具体的な活用事例を紹介する。分析のアプローチとしては、個人ごと、部署など属性ごと、組織全体という大きく三つの観点がある。

まず個人について。環境適応力の高いリーダーを目指すと仮定して、その上でコーン・フェリーが特定した12のコンピテンシーを高めていこうとした場合だ。アセスメント結果からそのポジションに対する適合度を定量化し、基準値以上のものを緑色でハイライトしている(図表5)。青色で枠組みされたコンピテンシーは、この十名の選抜メンバーに相対的な強みがあることが分かる。また赤枠に注目すると、開発が求められる領域というのが可視化できる。ただし、こうして能力開発領域を特定しても、単純に弱い部分から開発すべきと捉えるのではなく、最初にDefineした事業戦略や役割期待を踏まえた上で、優先的な項目を見極めることが重要になってくる。

▼図表5:個人の分析例

次は部署など属性ごとの分析。図表6には例として部門別(営業1部と営業2部)の分析例を載せている。こういった部門ごとの切り口以外にも、入社時期、新卒と中途、階層別など様々な属性軸での比較が可能だ。ディメンション(切り口)ごとに傾向を見ていくことによって、グループごとの特性や強み、あるいはなぜパフォーマンスに差があるのかといった要因を構造的に捉えることが可能になる。育成や配置の戦略的な設計にも活用できる一方で、分析の切り口は無数に存在するため、事前に「何をなぜ見たいのか?」という焦点を定めるプロセスが重要となる。

▼図表6:部署ごとの分析例

最後に組織全体の分析例を挙げる。アセスメントデータを統合し、強みや弱みをこう可視化したという事例だ(図表7)。このように組織全体のコンピテンシー・スコアを可視化することで、パフォーマンスの強みの源泉がどこにあるのか、あるいはどこに構造的な課題があるのかといった、より本質的な組織課題を捉えることができる。同時に、必要に応じてスコアのばらつきである標準偏差にも注目することで、グループ内でのスコアの個人差が大きいもの、安定しているものといった観点から、コンピテンシーの再現性や安定性も分析することができる。最近では能力開発の文脈だけでなく、組織内の人材ポートフォリオを作りたい、もしくは社内および中途採用の人材選抜といった文脈での引き合いも増えてきている。

▼図表7:組織全体の分析例

このようなピープルアナリティクスに関しては、企業ごとに成熟度は違うものだ。最初はスナップショットを撮って単年で部署単位や選抜メンバーの中の傾向を見ていくところからスタートし、取り組みを数年継続することで経年比較することが可能になる。この辺りから初めて仮説を持って何かを意図的に測定するというアクションを採ることができるようになる。

また、データ活用と聞くと統計学を使って統計優位を出してといった高度なプロセスを思い浮かべるかもしれないが、いきなり専門的なことに取り組むのではなく、まずは感覚値を脱して、データから新たな発見を生み、アクションへの手がかりとすることが第一歩となる。

 

■Q&A

Q1 製造業で、管理職層に登用するにあたり複数領域を経験させておくべきか検討している。製造リーダーと営業リーダーとでは求められる要件は大きく異なるが、ローテーションさせることは必要か?

A1 新卒からジョブ型という会社も出てきてはいるが、一般的には管理職になる前までは営業と製造を含めて部門をまたいだローテーションで経験を積ませるという企業が多いのではないか。ただ、管理職から先については、企業によっては以前と大きく変わってきている。例えばCXO制など機能別に経営人材を定義している場合など、最後に求められる経営メンバーの人材要件をどの粒度で設計するかによって、人の動かし方も変わってくる。

 

Q2 ミドルリーダーの要件を定義したとしても、要件に合致する人材を社内外からタイムリーに採用することが難しい。現実的には、要件を満たさない人材を登用して育成することになるが、その際のポイントは?

A2 人材要件に対して100点の人材というのはいないもの。ポジションができた時に、その都度上司からの評判などで近視眼的なアサインメントをすると、最初は良くても徐々にフィットしていなかったことが明らかになったりしがち。どういう領域が戦略的に重要で、そのための人材要件をきちんと定義し、それに近い条件を持っている人を探す、もしくは育成していくということになる。そのためには現有戦力となる既存社員をある程度は網羅的に可視化しておくことが大事になる。

 

Q3 リーダーを育成するという考え方が社内に浸透しておらず、年功的に登用されている。そんな人たちにリーダーとしての自覚を持ってもらうために、全員にアセスメントを実施するというのは選択肢の一つとなるか?

A3 現状、事業が好調で今後も当面は今のやり方で問題ないという見込みがあるのであれば、わざわざデータに頼らなくても目利きで乗り切ることはできるかもしれない。人は自分と同じようなタイプの人を見つけるのが得意で、今の部長が自分と似たようなタイプを選んでいくというのは、一定の合理性があったりする。しかし長い目で見た時に、経営陣に少しでも先行きに対する危機意識があったり、今後の成長の方向性に対して違う角度からの人材登用も検討しようという考えがあったりするのであれば、アセスメントを活用するという方法もあるのではないか。

 

Q4 日本人は学習しないと思っていたが、日本のミドル層が学習スピードに強みがあるというのは認識と違っていた。これは学習スピードの定義の違いによるものか?

A4 質問者の言う「学ばない日本人」というのは、学ぶ時間が短いという話をされているように思う。弊社の【学習のスピード】というコンピテンシーの定義は、『新たな問題に取り組む際は、成功と失敗を学習材料として積極的に経験から学ぶ』となっている。セミナー内で紹介した調査はミドル層が対象で、社内で一定の評価を得てそのポジションにいることを考えると、経験から積極的に学び実務に活かすコンピテンシーが高かったため、昇進してきたという捉え方もできるのではないか。

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