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【ホワイトペーパー】TALENT 2.0: タレントを活かすことで 組織の成功を再構築する

世界は変わりました。タレント・マネジメントとサクセッション・マネジメントも、ようやくその変化に追いつきつつあります。

 

近年、働き方は劇的に変化しました。しかし、タレント(優れた人材)とサクセッション(後継者)に対する取り組みは、ほとんど変わっていません。問題は、手法が時代遅れになったというだけでなく、多くの時間を費やしたにもかかわらず、企業が「必要な時に、必要な場所で、必要な人材と後継者を確保できるか」という問いに明確な答えを得られていないことです。

過去2年間、コーン・フェリーは世界の先進企業や学術機関と協力し、最も革新的な企業がどのようにタレントとサクセッション・マネジメントを再構築しているかを調査しました。その結果、以下の3つの根本的なシフトが明らかになりました:

  • 定型的な人材計画から流動的なタレント&サクセッションへ
  • 人材の「所有」から「アクセス」へ:タレント・エコシステムとチームの構築
  • プロセス中心のHRから、人間中心・ビジネス密着型のインパクトへ

革新的な企業は、単なるプロセスやツールの設計を超えて、持続的なビジネスインパクトの創出に焦点を当てています。それは、以下の3つの潮流と合致するものです:

  • 必要な時に、必要な場所で、必要な人材と後継者を確保できる確実性の向上
  • 重要なタレントリスクの理解と予測(3~5年先を見据えたリスク管理)
  • タレントとサクセッション・マネジメントの課題に対応するための、より多く、より良い選択肢の確保

なぜこれが重要なのかは明白です。

これらの変化を受け入れた企業は、単にタレントを管理するだけでなく、タレントとサクセッションのマネジメントを通じて競争優位性を創出しています:

  • 生産性が最大20%向上
  • 市場変化への対応力が2倍に
  • 離職率が25%低下
  • 強力なタレントパイプラインを持つ可能性が2.5倍に

以下は、リーダーが知っておくべきタレントとサクセッションに関する3つのトレンドです。

 

1. 定型的な人材計画から流動的なタレント&サクセッションへ

時代遅れのプロセスを超えて、切迫したビジネス課題をリアルタイムに解決するタレント戦略へ。

ビジネスに連動したタレント戦略タレントとサクセッション・マネジメントは、混乱の時代においてもビジネス成果を推進し、事業の継続性を確かなものとしなければなりません。その重要性にもかかわらず、現在のアプローチで「必要な時に、必要な場所で、必要な人材を確保できる」と確信しているCEOや取締役はほとんどいません。コーン・フェリーの調査によると、90%の組織が後継者計画の重要性を認識しているにもかかわらず、実際に十分な財政的支援をしているのはわずか37%です。革新的な企業は、以下のように戦略を再設計しています:固定的なサクセッションから、戦略的優先事項を実現するために必要な人材を確保する動的でアジャイルなタレントアプローチへの移行。年次評価や固定された後継者候補のリストではなく、組織全体を強化する高品質な人材パイプラインの構築という密度に注目。様々なシナリオを想定し、タレントとサクセッションのリスクを積極的に特定し、軽減。従来の手法に頼るのではなく、創造的に選択肢を広げることで人材ニーズに対応。機敏かつ予測的なタレントに関する意思決定AIを活用したインサイトは、リスクの予測、ギャップの特定、リアルタイムのソリューション提供を可能にし、受動的なものから予測的な計画へとシフトさせます。AIは多くの面でタレントマネジメントとサクセッション・マネジメントを変革し、静的な計画から動的で予測的な意思決定へと進化させています。しかしながら、多くの企業がAIの活用を模索するものの、コアとなる人材プロセスに組み込んでいる企業はごくわずかです。

AIを活用できている企業は、以下の3つのメリットを享受しています。

  1. 将来の人材ニーズを複数の時間軸で予測する能力が向上する。
  2. 人材供給や離職リスクをより正確に予測し、将来の人材ギャップに先手を打てる。
  3. 人材リスクに対応するための最も効果的な施策を、より多く、より適切に特定できる。

最も革新的な企業は、AIを次の3つの方法でタレントおよび後継者戦略に活用しています。

  1. 組織のケイパビリティを明確化する
  2. タレントギャップを評価する
  3. 人員計画をビジネスの優先事項と整合させる

AIから得られたインサイトにより、企業は主観的な人材の推薦からデータドリブンなアプローチへと移行でき、情報に基づいた客観的な意思決定が可能となります。さらに重要なのは、AIが人材の流れを追跡し、トップタレントを正確に特定し、キャリアの意思決定を個人のバイアスではなくデータに基づいて行うことで、組織が継続的に学習・改善できる点です。その結果、リーダーシップパイプラインとビジネスパフォーマンスを強化する、より迅速でスマートな人材に関する意思決定が可能になるのです。

タレントの定義を拡張する

成功は、従業員の上位3%から5%だけによって築かれるものではありません。革新的な企業は、組織全体で多様なタイプの潜在能力が必要であることを認識し、より広範な人材プールを活用しています。人材が不足する世界において、これらの企業はタレントやポテンシャルの定義を広げ、組織全体で重要なケイパビリティを強固に維持・発展させています。

これらの企業はまた、ポテンシャル(潜在能力)がリーダーシップの役割に限定されず、様々な形で表出することを認識しています。そのため、上級職の後継者に焦点を絞る狭い視点を超え、垂直的な昇進であれ、横方向の成長であれ、あらゆるレベルで人材を育成します。

重要なのは、ポテンシャルを「優れているか劣っているか」でランク付けすることではなく、異なるタイプの貢献を理解し、従業員が自ら希望するキャリアを実現できるようにすることです。

これらの企業は、人材に関する基準を透明化し、従業員が自己評価を行い、よりオープンで客観的なキャリアディスカッションに参加できるようにしています。ポテンシャルを動的なもの、つまり努力と機会によって進化し得るものと見なしています。タレントパイプラインを拡大し、社内モビリティを深めることで、定着率を高め、専門性を強化し、社内から新たな人材源を引き出すことができるのです。

 

2. 「所有」から「アクセス」へ:タレント・エコシステムとチームの台頭

革新的な組織は、従来の雇用モデルを超えて、タレントの獲得・育成・活用方法を再構築しています。

「War for Talent(人材獲得競争)」の終焉

最も革新的な企業は、もはやタレントを「所有」しようとはしません。代わりに、必要な時に必要な場所で適切な能力に「アクセス」できるよう、タレント・エコシステムを構築しています。つまり、「War for Talent(人材獲得競争)」は終わったのです——ただし、企業がタレントへのアクセス方法を再考した場合に限ります。従来の「所有」モデル(正社員として雇用する)は、特に需要の高いスキルにおいてはもはや持続可能ではありません。

本当の課題は、タレントを調達することではなく、イノベーションを加速するために必要な能力にアクセスできるかどうかです。企業は、タレントの所有から、必要に応じて専門性を調達できるパートナーのネットワークを活用するタレント・エコシステムの構築へとシフトする必要があります。

このアプローチは、雇用契約、人事制度、ガバナンスなどの構造的な課題を伴いますが、より大きな変化は企業文化でしょう。企業は以下を再考する必要があります:

  • 「従業員」とは何かを定義する
  • 従来のチームを超えた結束力を構築する
  • 流動的な労働力モデルにおける組織文化と記憶を進化させる

スーパーヒーローよりスーパーチーム

タレントとサクセッション・マネジメントの対象を、個人だけでなくチームとしたらどうなるか考えたことはありますか? 革新的な企業は、ビジネスの成功は「スーパーヒーロー」ではなくチームの力にかかっていることを認識しています。個人は依然重要ではありますが、競争力を生み出す原動力としてチームに注目する企業が増えています。

従来のHRは個人に焦点を当ててきました。個人のゴールを設定し、フィードバックを提供し、個人の貢献に報いてきました。しかし、これらの手法はしばしば社内の競争を生み、チームの結束とパフォーマンスを最適化できない原因となっていました。未来のタレントとサクセッション・マネジメントは、個人の育成と並行して、チームを基盤としたタレント戦略を統合する点にあります。

この変化がもたらす影響は様々です:

  • タレントのアトラクション(獲得):採用は、個々のポジションを埋めることから、チームのニーズを理解することへと移行しています。スポーツチームがチームに必要な特定の強みを持つ選手を獲得するのと同じように、企業はチームのダイナミクスと企業全体の成功を高めるスキル、性格特性、モチベーションを持つタレントを優先する必要があります。
  • タレントの発掘と昇進:企業は、個人のポテンシャルに加えて「チームのポテンシャル」を重視し、必要に応じてチーム全体を昇進させたり異動させたりします。これは、スポーツ界でリーグが選手だけでなく、トップパフォーマンスを発揮するチーム全体を昇格させるのと同じ考え方です。
  • キャリアの成長:今後、成功は個人ではなくチームの成果で測られるようになります。これは従来のキャリア観を一変させるものであり、リーダーや従業員に対して、個人の達成を超えた視点を求めます。

これらの変化は大きいものの、既に馴染みのある要素も存在します。たとえば、OKR(目標と主要成果指標)はチーム目標を設定し、チームパフォーマンスの評価も行われています。高パフォーマンスチームの構築方法も理解されています。課題は能力ではなくマインドセットです。タレントとサクセッション・マネジメントの基盤として、チームを受け入れる姿勢が求められます。コーン・フェリーの調査によると、共通のマインドセットを育むリーダーは、チームの協力、相性、そして全体的な効果性を向上させることができます。

キャリアと成長を再定義する

従業員は、自分のペースでキャリアを築きたいと考えています。企業は、透明性があり、自己主導型の成長ルートを提供する必要があります。多くの欧米企業は、タレントとサクセッション・マネジメントの取り組みを、上位3~5%の社員(将来の幹部候補)に集中させています。しかし、少数だけに依存していては、成功は覚束ないでしょう。

タレントが希少な世界においては、革新的な企業は、タレントと潜在能力を以下のように再定義しています:

  • より包摂的な定義を取り入れる:誰もが何らかの潜在能力と志を持っており、それは従来の枠に収まらない特異なものかもしれません。
  • あらゆる種類の潜在能力を受け入れる:リーダーとしての潜在能力だけでなく、専門性や組織全体にとって重要な潜在能力も重視します。
  • 潜在能力の定義を柔軟に進化させる:潜在能力は「ある・ない」ではなく、機会と成長によって進化するものとして扱います。

これらの企業は以下のような行動を取っています:

  • ポテンシャルの透明化:ポテンシャルに関する基準をオープンに共有し、従業員が自己評価を行い、自身の成長について客観的な会話に参加できるようにする。
  • より広いキャリアパスの設計:従業員が、トップポジションだけでなく、将来的な幅広い機会に挑戦できる支援する。
  • サクセッションを組織の深部に組み込む:外部採用に頼るのではなく、あらゆるレベルで空きポジションを迅速に埋めることができるようにし、重要なケイパビリティを維持する。

。コーン・フェリーの調査によると、企業が潜在能力を有効活用した場合、そうでない競合他社と比べて収益が2.5倍高くなることが示されています。潜在能力(ポテンシャル)の定義を広げることで、企業は社内から人材を発見するためのより多くの機会を得て、より強固で持続可能なタレントと後継者のパイプラインを構築することができます。

 

3. プロセス中心のHRから、人間中心・ビジネス密着型のインパクトへ

HRを根本的に再構築し、最も重要な価値を提供し、人とビジネスのニーズのバランスを取る。

徹底的に人間を重視するタレント戦略

透明性があり、公平で、従業員を惹きつけるタレントとサクセッション・マネジメントのプロセスは、従業員のエンパワーメントと信頼構築につながります。調査によると、こうした徹底的に人間を重視する原則を取り入れた企業は、将来の成功に向けてより良い立場にあることが示されています。しかし、現在の多くのアプローチはその真逆です。企業のニーズが従業員のニーズよりも優先されているのです。

多くの企業では、従業員は自分がタレント(優れた人材)や後継者候補と見なされているのか、そうだとすればどの役割か、そしてその理由は、といったことを知らされてすらいません。ポテンシャルの基準値はほとんど透明性がなく、プロセス自体が最も影響を受ける人々が排除されていることが多いものです。しばしば企業は「タレントについて話す」ことに時間を費やしすぎており、「タレントと話す」ことが不足しています。人をラベリングすることに時間を使いすぎて、本人たちのキャリア志向性を理解し、主体性を育むことができていません。そしてタレントとサクセッションのプロセスは連動しておらず、シームレスで意味のある従業員体験を構築することができていません。その結果、以下のような問題が生じています:

  • 重要な人材を特定・育成するための努力が煩雑で非効率的
  • 自分が評価されていることを知らずに離職する人材の損失
  • 透明性の不足によるプロセスへの信頼の欠如

徹底的に人間を重視するタレントとサクセッションのマネジメントは、人を第一に考えます。そうすることで、シンプルで、魅力的で、やりがいがあるプロセスを構築でき、従業員がキャリア目標を定義し、明確な基準に基づいて自己評価し、将来のキャリアパスを視覚化できるようになります。単に「あなたにはポテンシャルがあります」と伝えるのではなく、従業員がタレントや後継者候補として検討されたいときに自ら手を挙げられるようにします。

効率性だけでなく、体験を重視した設計

タレント戦略は、ビジネスのニーズと従業員の期待の両方を中心に構築され、エンゲージメントと定着率を高める必要があります。しかし、ほとんどのタレントおよびサクセッションのプロセスはビジネスニーズだけに基づいて設計されており、人員計画や重要な人材の確保に焦点を当てたものになっています。キャリア開発が依然として大きな課題であることを示す世界的なエンゲージメントデータがあるにもかかわらずです。実際、コーン・フェリーのWorkforce 2024調査によると、キャリアの成長機会の欠如は、人々が仕事を辞める理由として2番目に多く挙げられています。従業員は、自社のタレント・マネジメントやサクセッションのプロセスを排他的でエリート的なものと見なし、「自分には関係ない」と感じているのです。

革新的な企業は異なるアプローチを取ります。タレントとサクセッション・マネジメントをビジネスと従業員の両方のニーズに応えるものへと再構築し、必要な人材を引き付け、定着させるために魅力的なピープルエクスペリエンス(PX)の構築に焦点を当てているのです。効率性だけに注目するのではなく、リーダーや従業員がこれらのプロセスをどのように体験するかを優先しています。

このプロセスは以下の点で従来のものと一線を画します:

  1. PX最優先:理想的な従業員体験から逆算してプロセスを設計
  2. インクルーシブかつ共同設計:多様な人材層を巻き込み、誰にとっても機能するアプローチを構築

企業が従業員と共にタレントとサクセッションの仕組みを設計することで、エンゲージメントとビジネス成果の両方を高めるシステムが生まれます。

従来のHRサイロ(縦割り)の撤廃

現在のHRモデルは、ビジネス課題の解決に焦点を当てたアジャイルでクロスファンクショナルなチームに置き換えられつつあります。その結果、従来のHRのセンター・オブ・エクセレンス(COE)は存在しなくなるでしょう。

従来のHR COEの課題は、縦割りの深さ、効率性、一貫性を重視して設計されており、横断的な統合や優れた従業員体験には対応していなかったことです。その結果、以下のような問題が発生していました:

  • HRサービスの提供が断片化し、官僚的で、誰にも当てはまらない一律の対応になる。
  • HRが、システム的な課題に取り組むアジャイルでクロスファンクショナルな問題解決チームを運営するのに苦労する。
  • 緊急かつ複雑な人事課題が発生した際、リーダーがHRを無視する。

最も革新的な企業は、HRを再構築し、より柔軟で人を第一に考えるモデルへと移行しています。その例として次のようなものがあります:

  • ペルソナ重視のHRチーム:従来のサイロ化されたCOEの代わりに、HRチームは特定の対象グループ(例:経営幹部)を中心に構成されます。1人のリーダーがすべてのHRサービスをエンドツーエンドで統合し、単に「最良の」HRプロセスを机上で提供するのではなく、シームレスで個別対応の体験を確保します。
  • 課題ベースの暫定的なCOE:プロセス改善に焦点を当てるのではなく、HRは緊急のビジネス課題を解決するために、一時的なクロスファンクショナルチームやCOEの専門家チームを展開します。これらのチームは完璧さよりも問題解決を優先し、ソリューションが実装された後は元の役割に戻ります。

その結果、より適応力があり、迅速に対応できるHR機能が実現し、実際のビジネスニーズに整合するのです。

 

結論

これらの革新的なタレントとサクセッション・マネジメントの戦略を採用することは、単に変化に合わせることだけではありません。それは、タレントを通じて競争優位を創出することです。インパクト重視、ダイナミック、エコシステム型、人間中心のアプローチを採用する企業は、生産性、俊敏性、従業員の定着率を大幅に向上させると同時に、強固なタレントパイプラインを確保できます。これらの変革は、急速に進化する今日の市場において、持続可能なビジネス成功を推進するのです。

Sources include Korn Ferry, the Society for Human Research Management, and Gartner Research.

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